「壮年期に多い心臓病について」
村田内科 村田 貞幸
壮年期とは,辞書で調べますと30歳後半から40歳台の働き盛りの年代を
言うそうですが,平均寿命が80〜90歳まで延びた今日では50〜60歳台
でもまだまだ元気に働けると思います。心臓病には高血圧性心肥大,拡張型心
筋症,心臓弁膜症,虚血性心疾患(狭心症,心筋梗塞),不整脈などがありま
すが,食生活の欧米化に伴い狭心症と心筋梗塞が最近増加しており,特に40
歳以上の働き盛りの人に多いと言われています。そこで,本日は狭心症と心筋
梗塞について,Q.1どんな病気か?Q.2なり易い人は?Q.3心筋梗塞になったら
どうなるか?Q.4どんな検査があるか?Q.5治療は?Q.6気をつけることは?の
順で説明します。
Q.1 心臓は全身に血液を送るポンプの働きを行っており,この心臓に栄養を
運ぶ血管を冠動脈と呼びます。冠動脈の障害で発症するのが狭心症(狭窄)と
心筋梗塞(閉塞)です。狭心症では前胸部,左肩,首などの圧迫感や絞扼感が
1〜5分間持続します。労作性狭心症と異型狭心症(冠攣縮狭心症)があり,
ニトログリセリン(舌下)が著効します。心筋梗塞は胸部圧迫感や絞扼感が非
常に強く,冷汗を伴い,意識がなくなることもあり,30分以上持続します。ニ
トログリセリンは無効です。
Q.2 狭心症と心筋梗塞の危険因子は,1加齢,2家族歴,3高血圧,4高脂
血症,5糖尿病,6喫煙,7肥満,8運動不足,9ストレスなどがあります。
このうちで3から9は,個人の努力で改善可能です。
Q.3 心筋梗塞になると…詰まった冠動脈の支配領域の心筋が時間単位で徐々
に壊死を生じます。合併症として心室細動が多く,これは突然死の大きな原因
となっています。心筋壊死で心臓のポンプ機能が低下すると心不全を来たしま
す。僧帽弁を支える乳頭筋が断裂すると僧帽弁閉鎖不全症を生じます。壊死直
後の心筋は非常に脆く,豆腐のような状態であり,場合によっては心破裂を来
たすことがあります。
Q.4 検査として安静時12誘導心電図があり心筋梗塞は診断可能ですが,狭
心症は発作時にしか心電図変化が見られない為,運動負荷心電図検査や24時
間ホルター心電図検査が必要です。その他に心臓超音波検査,心筋シンチグラ
フィー,血液生化学検査,冠動脈造影CT,心臓カテーテル検査などがあります。
冠動脈病変(部位と狭窄の程度)を診断する為には冠動脈造影検査が必要です。
Q.5 薬物療法として血管拡張薬,抗血小板薬,抗凝固薬などがあります。カ
テーテル治療として,経皮的冠動脈形成術(小さな風船の付いた細いカテーテ
ルで冠動脈の狭窄部を広げる:PTCA),PTCA後の冠動脈の再狭窄を防止する為
のステント留置,高速回転のドリルで内腔より狭窄部を削るローターブレーター
などがあります。数年前より薬剤溶出ステントが使用されるようになり,ステ
ント内再狭窄は著明に減少しました。カテーテル治療が困難な病変に対しては,
冠動脈バイパス手術が行われます。胸骨の後面を走行する内胸動脈や胃の下縁
を走行する胃大網動脈などを使用して,狭窄(閉塞)部の末梢側にバイパス血
管を吻合します。以前は心臓を止めて手術していましたが,最近は心拍動下で
のバイパス手術が可能となってきました。欧米では重症の虚血性心疾患の最終
治療として心臓移植も行われています。もちろん,前述した危険因子を改善す
る治療も並行して行う必要があります。
Q.6 日頃どんなことに気をつければよいか?
肥満の解消! 肥満は糖尿病,高コレステロール血症,高血圧,運動不足を
伴うことが多く,危険因子の宝庫です。食事を減らし,運動をすることが大切
です。コレステロールの多い食品や塩分の多い食品を控え,毎日腹八分目に心
がけましょう。軽い運動でも毎日続けることが大切で,さらにストレスをため
ないようにしましよう。また,ニコチンは血管を収縮させ,冠動脈の血流を低
下させ,発作を生じやすくしますので,禁煙は非常に大切です。
ご心配な方は,かかりつけ医にご相談下さい。