「気になる! 高脂血症〜動脈硬化予防大作戦」


岸原病院 東野 治仁


高脂血症とは

 体の動きを正常に保つには脂肪が必要であり,そのため,脂肪は血中を通っ
て体中の各臓器に運ばれます。

 脂肪の多い食事を取りすぎたり,運動不足が続いたりすると血中の脂肪が多
くなりすぎます。この血中の脂肪が必要以上に多くなる状態を高脂血症といい
ます。

 血中脂肪にはコレステロール,中性脂肪,リン脂質,遊離脂肪酸があります。

 高脂血症は自覚症状をともなわないために見過ごされやすいので,放置する
と血管壁にコレステロールがたまり動脈硬化の原因となります。

 高脂血症は,血液検査を行い空腹時の採血でコレステロールは220mg/dl
以上,中性脂肪は150mg/dl以上,LDL-コレステロールは140mg/dl以上,
HDL-コレステロールは40mg/dl以下の場合に診断されます。

 高脂血症の原因としては遺伝性,二次性(甲状腺機能低下症,腎臓病,糖尿
病など),加齢(女性の閉経後),生活習慣の乱れ(運動不足,過食,肥満,
喫煙)などがあります。

 コレステロールは,生体内では細胞膜の成分として,またホルモンや胆汁酸
の原料として重要な物質です。

 コレステロールのうち比重の軽いLDL-コレステロール(低比重リポタンパク
コレステロール)は,悪玉コレステロールと呼ばれ,血液中の濃度が上昇する
と,動脈硬化がより進行し,狭心症や心筋梗塞,脳梗塞,閉塞性動脈硬化症な
どにかかりやすくなります。これに対して,比重の高いコレステロールの粒子
はHDL-コレステロール(高比重リポタンパクコレステロール)といい,血液中
の濃度が高い場合には,動脈硬化の進行が抑制され,善玉コレステロールと呼
ばれています。動脈硬化を促進する因子としては,低HDL-コレステロール血症,
高LDLコレステロール血症,加齢(男性45歳以上,女性55歳以上),糖尿
病,高血圧,喫煙,冠動脈疾患の家族歴などです。

高脂血症と酸化ストレス

 酸化ストレスとは,生体内の酸化反応が亢進して生体にとって好ましくない
状態です。

 呼吸で発生する有害な活性酸素はその代表で,体外ではタバコの煙,紫外線,
車の排気ガスによって活性酸素が産生されます。

 近年,酸化ストレスは,癌や動脈硬化,老化などの原因として重要である事
が明らかになってきました。血液中のLDL-コレステロールが酸化ストレスによ
って酸化反応を受け,動脈硬化を引き起こします。一方,中性脂肪の構成成分
である脂肪酸も,体内で酸化されやすい物質ですが,その中でも多価不飽和脂
肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は酸化され
にくく,EPAやDHAを多く含む魚(イワシ,サンマ,サバなど)を多く摂取する
人種には,心筋梗塞の発症が少ないといわれており,高脂血症には,脂質を低
下させることと,酸化ストレスを軽減させる両面での治療が動脈硬化の抑制に
必要です。

高脂血症と高血圧

 高脂血症も高血圧も心血管疾患の危険因子であり,高血圧患者で高脂血症を
合併すると,リスクが著明に増加します。

 150mmHg程度の高血圧の人が,高脂血症を合併すると冠動脈疾患のリスク
は3倍以上になります。治療としては,肥満の是正,コレステロールと飽和脂
肪酸の摂取制限,アルコールの制限,総摂取カロリーの制限,運動療法を行い,
食塩も1日6g以下にします。それでも効果なければ薬物療法を行います。

高脂血症と糖尿病

 高脂血症と糖尿病はどちらも同じ生活習慣(過食,運動不足,肥満など)を
基盤として密接に関連し,両者を合併すると動脈硬化症に進展するリスクが増
大します。糖尿病の患者さんにおける冠動脈硬化症危険因子の第1位はLDL-コ
レステロールの上昇,2位はHDL-コレステロールの低下,3位はHbA1cの上昇,
4位は収縮期血圧の上昇,5位は喫煙と脂質異常がもっとも重要であると示さ
れています。

高脂血症と狭心症・心筋梗塞

 高脂血症を放置すると,血管にコレステロールがたまり,そこに炎症細胞が
集まり動脈硬化巣をつくります。

 心臓を栄養する血管は細いため,動脈硬化により血管の内腔が狭くなると運
動時に酸素不足となり胸痛が出現します。これを狭心症といい,さらに狭窄が
進むと血管が閉塞し,心筋梗塞となります。

 狭心症や心筋梗塞をおこすなど動脈硬化が進行したら経皮的冠動脈形成術を
行ったり,冠動脈バイパス手術を行います。

 動脈硬化の診断は血管造影,CT検査,MRI検査,超音波検査などで行います
が,最近では頚動脈超音波検査が注目をあつめています。頚動脈のエコーを行
い血管内径,内膜中膜の厚さ,プラークの有無,血管狭窄の有無を検査します。
内膜中膜の厚さは1.18mm以上ある人は0.87mm未満の人の4倍も脳卒中
の発症が多くなります。

高脂血症の治療

 食事療法は,適正なエネルギーを摂取し,油を使う料理は一日一品に,魚料
理を多くする。食物繊維の多い野菜やキノコ類を多くしたりビタミンC,Eや
カロチンを十分に取るようにします。

 アルコールやジュースは控えるようにします。また,禁煙する事も重要です。
 運動療法としては,できれば毎日30〜60分くらい速歩きをした方が余分
な脂肪がエネルギーとして使用されます。

 それでも効果なければ薬剤を使用しますが,コレステロールを下げる薬とし
てはHMG-CoA還元酵素阻害薬などが使用されています。

 高脂血症は,食事,運動及び薬剤によってコントロールを行い,動脈硬化へ
の進展を予防し,心臓や脳の病気を予防し,痴呆や寝たきり予防にも有効であ
り,元気に長生きできるように頑張りましょう。