「コレステロールの話」


きむらクリニック 木村 雅章


 高脂血症,主に高コレステロール血症について説明してまいりました。限ら
れた時間であまり多くのことを話そうとするとかえって焦点がぼやけますので,
以下のことを中心に説明しました。

 1総コレステロールの基準値は220r/dl未満2あたれば大きい3和食に
戻れの3点です。

 1は検診結果には必ず基準値が併記されていますが,ある程度結果の解釈を
患者さん自身が理解できるように,総コレステロール,HDLコレステロール,
中性脂肪の値からLDLコレステロールの値を算出する式を示し,同じ総コレス
テロール値であっても動脈硬化に対する影響力には違いが出てくる事,簡単に
言うといわゆる善玉であるHDLコレステロール値が高い方がよいのだいうこと
を説明しました。

 2は高コレステロール血症自体は無症状であること,無症状であるがゆえに
放置した後に待っているものは狭心症,心筋梗塞,脳梗塞など生命に関わる重
病,あるいは命を落とさないまでも著しく生活を制限されたり,家族にも苦労
を掛ける事態になりかねない疾病であることをお話ししました。

 3はもちろん食事についての話ですが,各食材に含まれるコレステロールの
含有量をいちいち記憶するなどは現実的に不可能ですから,高コレステロール
血症に対する食事療法のポイントをもっとも単純に説明したつもりです。食事
の欧米化が高脂血症の患者増加の一因となっていることには疑いの余地があり
ません。特に食事における脂肪摂取量の増加が顕著であるため,この点につい
て強調しておきました。

 戦前の一般的な日本人の食事と言えば,米飯とみそ汁,漬け物,その他に一
品二品付くぐらいの,低蛋白低脂肪,食塩摂取過多の食事であったため,必要
な脂質の不足による血管の脆弱性に高血圧が加わり脳出血が多発していた訳で
す。戦後食事の欧米化によりこの欠点が是正されたのは良いのですが,過ぎた
るは及ばざるが如しで,現在の食事は高カロリー高脂肪に傾きすぎですので,
戦前のような悪い日本食に戻るというわけではなく,現在の行き過ぎた欧米化
を是正する事を考えるようにお勧めしました。

 またモータリゼーションの発達の悪影響により運動不足となり,その結果と
して摂取したカロリーを消費しきれずに肥満傾向となり高脂血症が増加してい
ますので,標準体重の算出法を提示して肥満の人はなるべくそれに近づける努
力が必要である旨説明致しました。

 減量に関しては1日に必要な熱量より摂取熱量が少ない場合に減量できると
いう簡単な算数を,熱量という生活費が不足しているから皮下脂肪という貯金
を毎日少しずつ引き出して結果的に体脂肪を減らしていくことが出来るという
例えで説明致しました。同時に,必要なものを不足させて痩せるのであるから,
減量というのはある意味で空腹感との戦いであること,このあたりを自分に都
合よく考えて減量に失敗する人が非常に多いことを強調致しました。

 患者心理をついて短期間にかなりの減量が出来るなどの宣伝を見かけますが,
減量は体脂肪を減少させなければ意味が無く,脂肪は1グラムが9カロリーな
ので毎日200カロリーずつの減量でも月にせいぜい0.7キロしか減量でき
ないため,短期間の減量は体脂肪の減少ではなく一時的な体内水分の減少に他
ならず,いずれ必ず体重は元に戻ることをお話しし,このような誇大広告に引
っかからないように説明しました。

 最後の質疑応答で,コレステロールが高いと言われているが毎日酒を飲んで
も良いのかという質問が出ましたが,昔から酒は百薬の長であると言われてお
り(HDLが増えるという根拠ももちろんあるのですが),適量であればかまわ
ないことをお話しするとともに,私自身が毎晩必ず酒を飲みますので自分が出
来ないことは患者さんにも強制いたしませんと申し上げ,場内の笑いを誘った
ところで今回の健康教室を終了させていただきました。