「気になる手足のしびれ」


本田整形外科クリニック 本田 忠


はじめに
 しびれは多様な原因でおこります。神経由来,循環障害などです。多くは神
経由来なので,今回は整形外科の範囲の病気を説明します。模型や図解本も用
意しましたので今から皆さんに回します。神経の名前などは難しい漢字が多い
ですが,これは江戸時代末期の前野良沢や杉田玄白の蘭学事始で,作られた古
い漢語が多いためです。

○脊髄とは:図1
 脊髄は脳につながっていて,脊椎で保護されています。身長によって違いま
すが長さは大体45・で一番太い所で,1・くらいです。頚髄で8本,胸髄から
12本,腰髄から5本の神経が枝のようにでています。脊髄末端(馬尾;馬の尻
尾に似ている)からは仙髄神経がでています。合計で31本あります。各レベル
の脊椎のつぎめの椎間孔から対で出ています。この神経の枝は木の根に似てい
る事から神経根といいます。その先は枝分かれして末梢神経となって首から下
の四肢や体幹の動きや知覚を支配します。

 頚椎は7個,胸椎は12個。腰椎は5個あります。脊髄は脊椎より短いため,
脊髄の区分と脊椎のレベルはずれています。

○髄節とは:図2
 髄節は,31対のそれぞれの神経根が支配している部分です。神経根が侵され
ると,その髄節の反射,感覚,運動が障害されます。

○脊髄本体が損傷を受けた場合
 転落や交通事故などの外傷によるものが多く,損傷のレベル以下の全部の髄
節の障害がおこります。不完全損傷では,運動や知覚の部分的低下がおこりま
す。完全損傷では,損傷髄節以下の完全麻痺となります。

○障害高位レベルで起こる影響:図2
 知覚障害の範囲で脊髄損傷のレベルが診断できます。
C4より上:重症の場合,呼吸麻痺を生じ,致死的となることが多い。
C6〜C7:肩の運動と肘の屈曲は通常できる。それ以下の麻痺となる。
T4:乳首レベル以下の麻痺。
T10:臍以下の麻痺。対麻痺といいます。
S3〜S5神経根,またはL1の脊髄円錐 膀胱および腸制御の完全な喪失。
*略語は脊椎を指す。
予後 脊髄は中枢神経であり切断または変性した神経は回復しません。

○神経根レベルで障害された場合:図2
 脊髄が入っている空間を脊柱管といいます。神経根は一本ずつ,椎間孔から
でます。椎間孔は狭いため,骨または軟骨の突出で容易に神経根が圧迫されて,
その支配域の単髄節の障害がでます。老化による骨の突出(骨棘)による圧迫
の場合,脊柱管狭窄症といいます。高齢者に多い病気です。軟骨=椎間板で押
された場合を椎間板ヘルニアといいます。若年者に多い病気です。圧迫するも
ので病名が変わるだけで症状は同じです。腰の場合はたとえば,L5が押され
れば足背の知覚障害が出ます。S1が侵されれば足背の外側に知覚障害がでま
す。

治療 多くは慢性なので,薬物治療や安静に良く反応します。手術はあくまで
最後の手段です。高齢者の方は多椎間にわたるので残念ながら若干成績は悪い
ようです。早め早めに直すことが肝要です。

○末梢神経レベルで障害された場合:皮神経の知覚帯分布:上肢(図3)と下
肢(図4)参照
 外傷や圧迫で障害されます。障害されれば,各末梢神経の支配部位の知覚障
害と運動障害がおこります。解剖的な理由で,障害されやすい場所が決まって
います。これは神経が皮膚に近くてかつ直ぐ下が骨の所。軟部組織が薄い所で
障害されやすいからです。例えば上肢では橈骨神経は上腕伸側にあります。

 よく恋人の頭を腕枕して,圧迫されて下垂手になります。「土曜の夜の麻痺」
「ハネムーン症候群」などというしゃれた名前がついています。尺骨神経は肘
で圧迫されます。これは不用意に肘をついて電気が走る部位です。

治療 保存的治療に良く反応します。しかし障害の回復程度は1日1mmです。
ビタミンB12などを気長に飲んでいく必要があります。また途中で改善傾向が
止まってしまい,障害が残るなら神経の除圧などの手術を行います。

図のダウンロード
http://www.hachinohe.aomori.med.or.jp/bunsyo/h19/baba/sekizui.jpg