「転倒や骨折を予防するには」


ろくごう整形外科リハビリテーションクリニック 六郷知行


 寝たきりの原因では骨折,転倒は脳血管疾患,高齢による衰弱に続き第3位
である。転倒の主な場所は自宅の居間や平らな道など平坦な場所でも多く発生
しており,骨折の原因は立った高さからの転倒が7割超である。転倒の危険因
子には内的因子として加齢,運動不足に伴う身体機能の低下,循環器疾患,神
経疾患,視覚異常,睡眠薬や安定剤の服用等が挙げられ,外的因子としては住
居構造,足に合わない履物,屋内の障害物や段差等が考えられる。この中で自
分でまずできることは運動機能のアップと転倒を防ぐ住まいづくりである。

 運動機能をアップするためには運動が必要なわけだが,運動を行うにあたり
心臓病の既往があったり現在通院中の人は注意を要する。55〜75歳では社交ダ
ンス,自転車,軽めの水泳,テニス等が,75歳以上はベット上の体操,ゆっく
りとした歩行等が勧められる。転ばない歩き方としては目線を進行方向に向け
て,視野を広く,歩幅を少し広めに,着地は踵から,足先で地面をしっかりと
ける,テンポよく歩くことがポイントとなる。

 また,転倒を防ぐ住まいづくりとして部屋に敷いてあるマットの固定,階段
等に手すりや足下灯の設置,敷居にゆるやかな斜面をつけ段差をなくす,浴室
に手すりをつけたり滑り止めマットを敷くことなどが勧められる。

 次に,転倒や骨折と関連の深い運動器不安定症および骨粗鬆症について説明
する。

 運動器不安定症は高齢化によるバランス能力および移動歩行能力の低下が生
じ,閉じこもり,転倒リスクが高まった状態と定義されており,運動器機能の
低下を来たす決められた疾患の存在,日常生活自立度判定基準ランクJ(生活
自立),またはランクA(準寝たきり)であること,運動機能評価でバランス
能力として開眼片脚起立時間15秒未満,または移動歩行能力として3m timed
up and go test 11秒以上のどちらかがあてはまる人を差す。運動器不安定症
の人に勧められる運動として・物につかまって1分間の片脚立ちを繰り返す開
眼片脚起立訓練_・坐位または臥位で膝関節を最大伸展させ足関節を背屈し,
5秒間保持することを繰り返す大腿四頭筋訓練_・坐位より片脚または両脚で
立ち上がる動作を繰り返すゆっくりとした立ち上がり動作の3種類の運動があ
る。第78回日本整形外科学会でこれらの運動を行うことにより,運動開始1年
で転倒は開始時と比べ転倒者数率で32.8%,のべ転倒率で45.1%減少し,骨折
も52.4%減少したと報告されている。

 骨粗鬆症は骨が弱くなり骨折しやすくなる疾患である。骨形成と骨吸収のバ
ランスの乱れが原因となる。骨粗鬆症の患者数は年々増加傾向にあり,現在1,
200万人を超える人が骨粗鬆症であると推察されており,女性に多く,70歳代
後半では約半分の女性が骨粗鬆症であると言われている。骨粗鬆症の危険因子
としてはカルシウム不足や運動不足の他にダイエット,喫煙,アルコール多量
摂取,ステロイドの使用等があり特に注意が必要である。

 骨粗鬆症の治療に関しては,食事療法としてカルシウム,ビタミンD,ビタ
ミンKが含まれる食事をバランスよく摂取することが必要である。運動療法で
は自分の年齢,体力に合った運動が勧められる。薬物療法では現在多くの治療
薬が存在するが,ガイドラインでそれぞれの評価が示されており,ビスフォス
フォネート製剤が現在のところ特に推奨されている。骨粗鬆症の治療では食事
療法,運動療法,薬物療法すべてにおいて継続することが最も重要である。