「転ばぬ先の体づくり」


おくでら整形外科クリニック 奥寺 良之


 日本は平均寿命に関しては世界のトップに君臨しています。しかし,最近健
康寿命ということが提唱されており,2000年〜2010年の政策の中に「健康日本
21」というテーマで組み込まれています。これには以下の9項目があります。

 1.栄養・食生活
 2.身体活動・運動
 3.休養・こころの健康づくり
 4.たばこ
 5.アルコール
 6.歯の健康
 7.糖尿病
 8.循環器
 9.がん

 ところが,整形外科が関与する項目が全く入っていません。身体活動・運動
の項目はありますが,これは例えば糖尿病患者の運動療法といった種類の運動
であって,運動器に関連したものではありません。

 2000年から毎年,要支援・要介護1のいわゆる軽度要介護者が増えてきてい
ます。この原因は関節疾患・転倒骨折などを加えると25%が整形外科に関連し
た疾患です。このような背景の中で高齢者リハビリテーション研究会というの
が平成15年7月から始まりましたが,このメンバーにリハビリ医・OT・PTは入
っていましたが整形外科医は入っていませんでした。これはおかしいと厚労省
に抗議して入ることになりました。ただ運動器に対する生活能力低下に関する
健康事業では,整形外科医が不在でもどんどん進めていくことが出来るという
ことです。そのため地方健康事業でもなかなか整形外科医に声がかからないの
が現状です。

 「健康日本21」政策を5年間やってきたが,要支援・要介護1の軽度が増え
てきている。これはなぜかということになり,介護が不要な元気老人に対して,
転倒しやすい虚弱老人を運動器不安定症という診断名でスクリーニング,評価,
診断することになりました。それと,運動器リハビリテーションプログラムで
すが,例えば腰痛や膝痛のため運動ができない人にはちゃんとその治療をして
運動ができるようにすることです。足腰が弱い,自信がない,運動しようと思
えば倒れそうな老人,これもちゃんと指導して足腰をしっかりさせる。これは
整形外科医の仕事ではないかということで,運動器不安定症あるいは運動器リ
ハビリテーションということが医療課の中に取り入れられ,現在事業としてす
すめられています。

 介護予防と運動器リハビリテーション:要支援や要介護という言葉は,手助
けが必要であるという意味に用いられ,病気という言葉は出てきません。介護
に関連する概念は日常的に行われる動作が1人でできるのか,介助が必要なの
か,できると言っているのか,実際しているのかを分ける必要があります。そ
れによってリハビリのやり方が変わってきます。

 高齢者の健康維持は,まず病気を治療し,機能を回復し,そして能力を再獲
得して住み慣れた地域に戻るというプロセスを経て達成されます。例えば人工
関節を行った人はそれに合った歩き方・生活を獲得しなければなりません。健
康寿命を延ばすためには医療から介護,在宅へという過程がシームレスに移行
しなければなりません。そのためにはまだいろんな問題点がありますが,少し
ずつ解決していかなければなりません。

 最後に骨粗鬆症について少し述べますと,これから骨量を測定する場合はす
べての機種でよろしいということになりました。また治療薬に関しても週1回
投与というものも発売されました。現在エビデンスが得られているものとして
アレンドロネート,リセドロネート,塩酸ラロキシフェン,ビタミンK2製剤,
活性型ビタミンD3製剤があります。また腰痛に効果があるものとしてカルシ
トニン製剤があります。いずれにしても治療に関しては整形外科の先生と相談
して決めてください。

 以上,適切な運動を行い,メタボリックシンドロームにならないように予防
し,更に必要なら適切な治療を受けて,健康で長生きしていただきたいと思い
ます。