「耳の病気ときこえ 〜お年寄りとの話し方〜」
かねた内科耳鼻科医院 金田 裕治
皆さんは「難聴」というものをどのようにとらえていますか? そして,耳
の遠い方との接し方はどのようにしていますか? お年寄りに話しかけるとき,
つい聴きかえしが多かったり,何度も同じことをしゃべらなければならないこ
とに苛立ちを感じている方は多いのではないかと思います。
難聴にも様々な種類がありますが,主には伝音性難聴と感音性難聴がありま
す。「伝音性難聴」は外耳や中耳の音を伝える系統に支障がある場合,「感音
性難聴」とは内耳および音を聴く神経である聴神経や脳中枢の障害により起こ
る難聴です。この二つの難聴は障害部位や症状まで基本的な違いがあります。
感音性難聴には老人性難聴をはじめ突発性難聴,メニエール病,騒音性難聴,
音響外傷など様々な疾患がありますが,今日は老人性難聴の方との話し方につ
いてお話します。
耳の聞こえづらい方のほとんどが単純に音が入りづらい,周りから入るボリ
ュームが小さくなっているだけ……と受け止めている方がほとんどではないで
しょうか?
感音性難聴の特徴はこれに加え,「音が必要以上に響いて聞こえる(聴覚過
敏)」「耳鳴り」「耳が塞がる感じ(耳閉塞感)」「めまい感」などが付随し,
とくに老人性難聴の場合は「相手が話しかけているのはわかるのだが,内容が
聞き取れない(語音明瞭度の低下)」といった訴えをよく聞きます。みなさん
にも思い当たるところがあるのではないでしょうか? この症状は周りにテレ
ビがつけっぱなしになっていたり,子供が騒いでいるといった環境下で益々強
くなります。家庭で忙しいときには顔さえ向けず,台所から水道を出しっぱな
しで話しかけたり,テレビやラジオをつけっぱなしで騒音下に話しかけたりし
ている方はいませんか?
最近,社会問題になっているのは難聴の方に補聴器さえ買ってあげればそれ
で正常の人と同様に聞こえるものだと誤解している方が多いことです。老人は
高価なものを買ってもらっても使いこなせず,引き出しにしまったままになっ
たり,家人からの話しかけに気を遣い理解したようなそぶりを見せ後で大きな
事故につながったり,徐々に引きこもりになっていくといったことが起こって
います。補聴器はめがねと違い装用していると自然に聴力を回復してくれる構
造ではなく,周囲の環境により入る音がぜんぜん違います。お茶の間で使いた
いのか,ホールのような人の集まるところで使いたいのかその用途をはっきり
させ使い分けなければなりません。さらに,購入後リハビリを兼ねたフィッテ
ングが必要になり,それなりに手間のかかるものです。
核家族化が進んで老人と話す機会が少なくなり,老人を理解しようといった
努力を怠り,苛立つ者,暴力を振るう若者がいるといった話もあります。みな
さんもつい苛立つと,がなり声をたてたり,手を口に添えて耳元で大声で話し
たりしていませんか? これは音が必要以上に響いたり二重に聞こえたりとか
えってお年寄りには苦痛になります。
そこで,耳の遠い方と話すときにはなるべく一対一で,周囲を静かにした上
で,アナウンサーのようにハキハキと,口元を見せて,注意を引きながら,ゆ
っくり話すことをお勧めします。けっして口元を隠したり,表情の見えないと
ころから話しかけないで下さい。耳の聞こえない方は懸命に相手の表情や口の
動きから理解しようとする傾向があります。これは健常者以上に卓越していま
す。
何よりも「自分がこれから経験する道」であることを認識し,接する気持ち
が大切です。
*なお講演後,袴田勝先生,洲崎洋先生,橋本敏光先生とともに耳の日無料相
談をとりおこなったことをご報告いたします。