「血液のがんを知ろう」
青森労災病院 河津 俊太郎
●造血のしくみ:血液細胞は 3 系統に分類される。赤血球は酸素の運搬を行
い,白血球は感染防御の担い手で,血小板は血液凝固にかかわる。
●多能性造血幹細胞:主に骨髄に存在し,1自己複製能と2多分化能の 2 つ
の機能を同時に備えている。
●白血球の動態と機能:好中球は血液中には約10時間しか滞留せず,すべて組
織へ移動し,組織での寿命は 4 〜 5 日である。代表的機能は貪食殺菌能であ
る。リンパ球は免疫機能の中心を担っている。T 細胞,B 細胞,NK 細胞の 3
種類がある。
―血液のがんは白血病,悪性リンパ腫,多発性骨髄腫が主なものである。
●白血病とは造血系細胞が骨髄の中で腫瘍化し自律的に増殖し,末梢血の中に
異常細胞すなわち白血病細胞が出現した状態で急性白血病と慢性白血病に分け
られる。
★急性白血病:骨髄では腫瘍化した芽球(白血病細胞)のみで占められるよう
になり,正常な細胞がほとんど造られなくなる。
・白血病の原因ははっきりしていないが血液細胞の遺伝子レベルでの異常が原
因となっていると考えられる。
・白血病の症状は正常の細胞が造られなくなるため,白血球減少による症状と
して,治りにくい感染症,原因不明の発熱,赤血球減少による症状として息
切れ,動悸,倦怠感など,血小板減少による症状として皮下出血,粘膜出血,
歯肉出血などである。
・急性白血病の治療は1化学療法,2放射線療法,3造血幹細胞移植療法であ
る。化学療法は寛解導入療法と完全寛解後の残存白血病の根絶を目的とする
寛解後療法とがある。放射線療法は白血病が中枢神経に浸潤している場合に
行う。造血幹細胞移植には骨髄移植,末梢血幹細胞移植,臍帯血移植の 3
つがある。
★悪性リンパ腫:白血球の中のリンパ球ががん化した悪性腫瘍で,リンパ節が
腫れたり腫瘤のできる病気である。
・悪性リンパ腫はホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分類され日本では
圧倒的に非ホジキンリンパ腫が多い。
・悪性リンパ腫の症状:全身のあらゆる臓器に発生するが,頚部,わきの下,
足のつけ根などのリンパ節が腫れることが多い。通常腫大したリンパ節には
痛みがない。全身症状を欠くことが多いが,発熱,寝汗,体重減少,かゆみ,
身体のだるさなどを認めることもある。
・悪性リンパ腫の確定診断はリンパ節生検による組織診断である。また,病期
診断のため CT,Ga シンチ,MRI,内視鏡検査,骨髄検査などが行われる。
・悪性リンパ腫の治療は化学療法(抗がん剤,抗体療法)が主であるが,放射
線療法,外科療法を行うこともあり,ときにはこれらの療法を組み合わせる
必要がある。
★多発性骨髄腫:骨髄でがん化した形質細胞(骨髄腫細胞)が周りの骨を破壊
しながら増え続けるため,骨の痛みを感じるようになったり,全身の至るとこ
ろの骨が弱くなり,折れやすくなる。がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)から
単一の抗体(M タンパク)が多量に産生される。M タンパクの種類により,骨
髄腫は IgG 型,IgA 型,IgD 型,ベンスジョーンズ型に分類される。
・多発性骨髄腫は男性に多く,高齢者に多い。65〜70歳がピークで45歳以下は
少ない。
・多発性骨髄腫の治療は1化学療法:通常は 2 種類以上の抗がん剤を組み合
わせて用いる。2放射線療法は主に痛みの軽減,腫瘍による神経圧迫症状の
改善のために用いる。その他3外科療法,4大量化学療法+造血幹細胞移植
が行われることもある。