西村産婦人科クリニック 西村 幸也
妊娠中に気をつけてほしいことはいろいろとありますが，それにとらわれて
あまり神経質になることはなく，明るく楽しい妊娠生活を送ってほしいと思い
ます。
まず流産について。妊娠22週未満の妊娠中絶を流産といいますが，全妊娠の
10％以上が流産します。流産の原因の大部分がやむをえないもので，染色体異
常によるものであり，自然淘汰とも言えます。
早産は妊娠22週以降から37週未満の分娩のことで，妊娠全体の約 5 ％です。
症状は子宮の収縮に伴う腹部の緊張と腹痛，出血などです。原因として子宮の
感染と子宮頚管無力症が重要です。膣の中の細菌が上行性に子宮の中へ入って
行き，子宮頚管炎や絨毛羊膜炎を起こし，その結果，炎症性の子宮収縮が誘発
され子宮口の開大や前期破水をきたすと考えられています。また，子宮頚管無
力症では自覚症状のないうちに子宮頚管が開大してきます。原因としては，過
去の分娩時の頚管裂傷などがありますが，原因不明のものも少なくありません。
早産のおそれのある状態を切迫早産といいます。切迫早産の軽症の場合は，
子宮収縮抑制剤の内服と自宅安静で加療しますが，重症の場合は入院して子宮
収縮抑制剤などを持続点滴して投与することになります。私達が切迫早産に注
意を払い，厳重に管理しようとするのは，未熟児の出生をおそれるからです。
近年の新生児医療の進歩により，かなり小さな未熟児が生存するチャンスは増
えました。しかしそれでも限界があり，1,000g未満で生まれた超低出生体重児
とよばれる赤ちゃんの半分は助からず，助かった場合でも20％以上に精神神経
発達的予後に問題を残すといわれています。胎児は妊娠28週で約1,000gに達し
ますから，そこまで早産させずに妊娠を継続させるのが切迫早産治療の第 1
の目標となります。
妊娠中にやっていいことと，悪いこと。
最近は適度な運動は妊娠，分娩によい影響を及ぼすことがわかってきて，水
泳やマタニティビクスをやってみたいという妊婦さんも増えてきました。運動
の内容は，１母児にとり安全性が高い ２有酸素性運動 ３全身運動 ４楽し
く長続きするもの，が良いでしょう。ただし，合併症等のため運動を勧められ
ない妊婦さんもいますから，事前に産婦人科医にご相談して下さい。
車の運転は，基本的には妊婦さんはしない方がよいのですが，現代生活では
なかなかそうはいかない場合が多いでしょう。しかし妊娠 8 か月以降は避け
るべきです。
妊娠中の旅行も控えてほしいと思います。特に妊娠終盤にはいつ破水したり，
分娩が始まるかわかりませんから，実家に里帰りする場合も妊娠34週以前に帰
るべきです。
妊娠中の喫煙が胎児にとって有害なことは明らかです。タバコの煙には一酸
化炭素が含まれていて，胎児の酸素不足が起こり，低出生体重児が生まれる率
が高くなります。また近くで喫煙される（間接喫煙）のも有害です。
妊娠中はお酒も控えた方が無難です。少量ならばあまり気にすることはあり
ませんが，ある程度以上の飲酒は胎児アルコール症候群という異常を引き起こ
しますので要注意です。
分娩に際して夫や家族の立合いを希望する妊婦さんも増えてきました。立合
い分娩は妊婦さんの安心感を増やすのと同時に，夫婦や家族の絆を強める効果
が期待できます。また病院側も LDR システムを取り入れて，分娩，出産の時
間を夫や家族と一緒に暖かい家族的な雰囲気の中で過ごすことができるように
なってきました。
このように，女性にとって一生のうちに 2 ， 3 回しかない妊娠，出産とい
う経験を，基本的な注意事項をふまえることによって，悔いなく実り多いもの
としていただきたいと思います。
