「増えている大腸がんから身を守ろう」


八戸市総合健診センター 菅原 泰男


 近年,わが国の大腸がんは著しく増加しています。

 医学の進歩により多くの大腸がんは救命されていますが,それでも 1 年間
に約 3 万 9 千人ほどの死亡者がいます(2003年)。その発症には食生活など
生活習慣が深くかかわっており,大腸がんも一種の生活習慣病であると考えら
れます。近年の増加の原因としては,食生活の変化,特に食物繊維摂取量の減
少や脂肪摂取量の増加が明らかとなっています。

 厚労省の人口動態統計によると,大腸がんによる死亡者は肺がん,胃がんに
次いで 3 番目に多く,20年前の 2 倍になっています。厚労省研究班は2015年
の部位別患者数を,大腸が男性では肺を,女性では乳房を上回って最多になる
と予測しています。特に女性では患者数だけでなく,死亡者数でも 1 位にな
る見通しとしています。

 都道府県別大腸がん死亡率(人口10万人対)は, 1 位秋田, 2 位青森, 3
位山形, 4 位岩手, 5 位島根となっています。八戸市の場合,がん死亡者
数は肺がん,大腸がん,胃がん,肝臓がんの順となり,毎年70人前後の方が大
腸がんで死亡しています。

 他のがんに比べて大腸がんの発育は比較的ゆるやかであり,大腸がん検診(便
潜血検査)が広く行われて治療可能な段階での発見が多くみられるようになっ
ています。この検診で発見されるがんの63%は早期であり,この早期がんでは
ほぼ100%治bキることができます。さらに進行したがんでも約半数が救命さ
れており,大腸がん検診の意義は大きいと考えられます。

 がん検診の目的はがん死亡率を下げることにあります。よい検診,高い受診
率,精度管理が必要です。便潜血検査による大腸がん検診に関しては,「死亡
減少効果があるとする,十分な根拠がある」と結論付けられています。

 八戸市の大腸がん検診(2002年)は,受診者13,800人,要精検者676人,精
検受診者458人,精検受診率67.8%となっています。精検受診率は00年60.6%,
01年64.4%,02年67,8%と徐々に上昇してきていますが,精検受診率向上が今
後の課題であり,少なくとも80%台を目指したいものです。

 痔があるとか,便が硬かった場合にも便潜血検査陽性となることがあります
が,自分勝手に判断せずに大腸の精密検査で確認して頂くことが是非とも必要
です。大腸の精密検査としては注腸 X 線検査と内視鏡検査が行われます。全
大腸内視鏡検査は診断技術の向上により検査も受けやすくなり,見逃しも非常
に少なくなっています。

 大腸がんの治療は以前には手術的に行われていましたが,最近の内視鏡治療
の進歩により,多くの早期がんには内視鏡的切除が行われます。成功率が大変
高く,早期がんであれば内視鏡治療で十分と考えられています。

 大腸がんの予防には日本人の食生活,特に食事内容の変化が求められます。
食事は動物性脂肪を減らし,食物繊維を多く摂るようにします。食物繊維は大
腸の中でスポンジの役割を果たし,発がん促進物質を吸いとって便とともに体
外に排出してくれます。規則正しい便通に心がけ,こまめに体を動かすことが
腸の働きを活発にしてくれます。「栄養のバランス」「適切な睡眠」「適度の
運動」「明るく前向きな心」が健康を維持する免疫力や自然治癒力を高める,
重要な要素となります。

 がんは早期発見すれば簡単な治療で完治する可能性が高くなってきています
が,大腸がん検診受診率は横ばいです。検診を受けるべき年齢の人たちの20〜
30%しか受けておらず,この数字をもっと増やさないと,全体としての予防効
果は出てきません。ぜひ定期的に大腸がん検診を受けていただきたいものです。