「こころの健康」
渡邉 温知
1.はじめに
近年,「こころの健康」についての相談や治療を受けられる方が増えてきて
おります。特に「うつ病」は「こころのかぜ」と呼ばれているほど,だれにで
もかかりうるごくありふれた病気だといわれています。しかし,日常生活に著
しく影響がでる,自殺行動が起きるなど,症状が強まった場合は注意が必要に
なってきます。今回は,「うつ病・うつ状態」について考えていきたいと思い
ます。
2.うつ病・うつ状態とは?
心が疲れたために,気分がゆううつになり,元気が出ない状態が続く状態を
「うつ状態」といいます。気分が落ち込むことは,だれしも多かれ少なかれあ
りますが,「うつ病」の場合は,その落ち込み方が極端で,日常生活に非常な
苦痛を感じ,体調への変化を生じることもあります。また,「うつ病」は稀な
病気ではないといわれており,日本のある調査では, 7 人に 1 人が一生のう
ちでうつ病になったことがあるという報告があります。ところが,「うつ病」
だと分からずに,受診しない方も少なからずあります。
3.うつ病・うつ状態の症状や治療
症状は,気分が沈む,意欲や関心の低下,易疲労感,食欲不振,不眠,自責
感,希死念慮など多彩です。さらに頭痛・肩こり・胸部不快感・のどのつまり
感などの身体症状を訴えることもよくあります。うつ病に早く気づくために次
のことに注意すると良いとされています。
1 )毎日の生活にハリが感じられない
2 )これまで楽しんでやれたことが楽しめなくなっている
3 )以前には楽にできていたことがおっくうに感じられる
4 )自分が役に立つ人間だと思えない
5 )わけもなく疲れたような感じがする
治療は,ク充分な休養 ケ薬物療法 コ精神療法など心理的なアプローチが
中心となります。
4.患者さんの家族や周囲の対応について
「うつ病・うつ状態」の患者さんの回復には,周囲の方の協力も大事です。
以下のことに注意して接してみましょう。 1 )心配しすぎない
2 )相手の話を良く聞く 3 )励まさない 4 )原因を追究しすぎない
5 )重大な決定は先延ばしにする 6 )ゆっくり休ませる。そして,日常生
活の中で「様子がおかしい」「いつもと違う」といった状態が続いている時は,
早めに相談していただきたいと思います。さらに,自殺の兆候を見逃さないこ
とも重要です。死に関する言動には注意を払う必要があります(うつ病では,
発病の時期と回復期は自殺の可能性が高くなることがいわれていますので,特
に注意が必要です)。
5.まとめ
「うつ病・うつ状態」はだれにでも起こりうる疾患です。そして,現代のス
トレス社会の中で,特に軽症の患者さんが増加しております。日ごろから,睡
眠や食事の状態がうまくいっているか,いろいろなことへの興味や関心が失わ
れていないかなど注意していくようにすることが大事であり,何らかの変化が
あれば早めに相談するように心がけたいものです。そして,周囲の方々は本人
のつらさを理解し負担を取り除く手助けをしていただければと思います。