「尿でわかる異常 〜泌尿器の話〜 おしっこで判る健康のバロメーター」


八戸赤十字病院 瀬尾 喜久雄


 普段私たちは特に問題意識なくおしっこをしていると思います。しかし医学
的には,おしっこを調べることでいろいろな健康状態に関する情報を手に入れ
ることができます。本日は,健康診断のときにおしっこの検査がありますが,
おしっこを検査することでどんなことがわかるかお話してまいります。時間が
あればおしっこの出方の異常についてもお話をしたいと思いますので,よろし
くお願いいたします。

 最初に,おしっこがどのように作られるかを考えてみましょう。おしっこが
腎臓で作られることはご存じだと思いますが,その原料になるのは血液です。
通常,腎臓へは体内を流れる血液の約25%(血漿の量にして500ml/分)が流れ
ているといわれています。その血液が片方だけで約100万個ある腎糸球体とい
われる濾過装置に入り,その約20%(100ml/分)が原尿としてこし出されてい
ます。この原尿が尿細管という細い管の中を通過する間に約99%が再吸収され,
最終的におしっこになる水分は約 1 %( 1 ml/分)となり,おしっこの量と
しては 1 日約1500mlとなります。また,原尿の中には多くの体内で産生され
た老廃物や解毒された毒性物質を含んでおり,これらも尿細管を通る間に濃縮
され,必要なものは再吸収されています。つまり,腎臓の役割のひとつとして
血液を浄化し,リサイクルを行う仕事があるわけです。

 また,膀胱の大きさはおおよそ300mlですので,排尿回数は1500÷300= 5 ,
つまり 1 日 4 〜 6 回程度が標準的な回数になります。臨床的にはおしっこ
が近いことを頻尿といいますが, 1 日10回以上おしっこにいく場合にには頻
尿と考えてよいでしょう。

 このようにして作られるおしっこの状態について考えていきましょう。

 最初に,おしっこの色について考えてみますと,通常のおしっこはやや黄色
みのある透明な液体です。この黄色い色はビリルビンという色素から作られる
ウロクロームという色素の色です。尿が濃くなると茶色っぽくなり,薄くなる
と無色になります。では,おしっこの色の異常にはどんなものがあるでしょう
か? まず,褐色に見える場合には肝臓で代謝されるビリルビンという色素が
混じっていることが考えられ,肝臓の検査が必要になります。赤い色や赤褐色
の場合には血液が混じっていることが考えられます( 1 リットルの尿に 1 ml
以上の血液が混じると肉眼で赤いと感じることができます)。この場合には腎
臓病や尿路からの出血(結石・腫瘍・炎症など)が考えられ,腎臓内科や泌尿
器科のお世話になる必要があります。また,透明度がなくなり濁りが生じた場
合(混濁尿),尿路の感染に伴う白血球や細菌混じりの尿であったり,結晶(多
くは尿酸塩や蓚酸塩など)であったりしますので,おしっこのときの痛みや発
熱を伴う場合には同様に泌尿器科への受診が必要です。

 次に,チェックが入るのは蛋白の有無です。通常,尿蛋白は陰性ですが,激
しい運動の後や発熱性疾患のときなどには陽性になることがあります。これら
の場合を除いて連続的に陽性になる場合には急性・慢性腎炎やネフローゼなど
の腎疾患や腎盂腎炎などが考えられ,腎臓内科や泌尿器科への受診が必要です。

 最後におしっこに糖が出る場合ですが,糖尿には糖尿病に伴うものと腎性糖
尿といって腎臓での再吸収に問題がある場合があります。まず,内科で空腹時
血糖を調べてもらいましょう。また,糖尿病の合併症としての糖尿病腎症では
腎不全をひき起こすことがあり,蛋白尿を伴う場合には可能性が高いので要注
意です。

 以上のような尿検査で異常を発見すべく努めているわけですが,健康のため
に何よりも重要なのは普段の食生活です。

 以下に,腎臓を守っていくための食事の 4 つのポイントをお示しします。
1 )塩分を控える:過剰な塩分を抑え,高血圧を予防しましょう。塩分は 1
日10 g 以下にしましょう。
2 )蛋白質を控える:過剰な蛋白摂取は窒素成分の排泄のため,腎臓の負担
になります。 1 日50 g 前後にしましょう。
3 )プリン体を控える:肉類・レバー・卵・貝類・お酒などの摂りすぎを控
え,尿酸代謝を改善しましょう。
4 )エネルギーを控える:肥満を予防しましょう。
 以上の 4 点に注意してバランスの良い食事で,腎臓の負担を減らし,健康
な腎臓を守っていきましょう。