「中高年のこころの変化にどう向き合うか」
八戸赤十字病院 渡邉 温知
1.はじめに
「こころの健康」についての関心が最近高まってきております。中高年では,
身体面や生活面で様々な変化が起きる年代です。そして,それに伴い「こころ
の健康」のバランスを崩すことがあります。今回は「中高年のこころの変化」
として,特によくみられる「うつ病・うつ状態」について考えてみたいと思い
ます。
2.中高年の変化について
身体面についてみると,まず体力の衰えなど生理的機能の低下が生じます。
また,生活習慣病の増加や更年期障害に代表される内分泌的変化は,この年代
の特徴の一つといえます。一方,心理的な面に着目すると,職場(例:リスト
ラ・配置転換など),家庭(例:育児・教育・介護など)での変化が生じやす
い時期といえます。このような身体的・心理社会的要因が複合的に作用するこ
とによって,「こころの健康」の乱れが生じるといえます。
中高年によくみられる精神科疾患はさまざまあげられますが,なかでも「う
つ病・うつ状態」は最も頻度の高い病態と思われます。
3.うつ病・うつ状態とは?
心が疲れたために,気分がゆううつになり,元気が出ない状態が続く場合を
「うつ状態」といいます。気分が落ち込むことは,誰しも多かれ少なかれあり
ますが,「うつ病」の場合は,その落ち込みが極端で,非常な苦痛を感じ,体
調の変化がでることもあります。
そして,うつ病は決してまれな病気ではありません。現時点で,世界の人口
の 3 〜 5 %が罹っていると言われています。日本のある調査では,
7 人に 1 人が一生のうちでうつ病になったことがあるという報告があります。
うつ病は40代から50代が好発年齢の一つと言われています。
うつ病には,内因性・外因性・心因性といろいろなタイプがありますが,い
ずれのタイプにせよ環境の変化や人間関係などのストレスによって,発病の引
き金になることがあります。
4.うつ病・うつ状態の症状・治療とは?
精神症状は,気分が沈む,意欲や関心の低下,易疲労感,食欲不振,不眠,
自責感,希死念慮など多彩です。さらに頭痛,肩こり,胸部不快感,のどのつ
まり感などの身体症状を訴えることもよくあります。
治療は,ク充分な休養,ケ薬物療法,コ精神療法など心理的なアプローチが
中心となります。
5.うつ状態の患者さんの家族・周囲は,どのように接するといいのでしょう
か?
うつ病・うつ状態の患者さんの回復には,周囲の方の協力も大事です。以下
のことに注意して接してみましょう。ク心配しすぎない,ケ相手の話を良く聞
く,コ励まさない,サ原因を追究しすぎない,シ重大な決定は先延ばしにする,
スゆっくり休ませる。そして,日常生活の中で「様子がおかしい」「いつもと
違う」といった状態が続いている時は早めに相談していただきたいと思います。
さらに,自殺の兆候を見逃さないことも重要です。死に関する言動には注意を
払う必要があります(うつ病では,発病の時期と回復期は自殺の可能性が高く
なることが言われていますので特に注意が必要です)。
6.まとめ
「うつ病・うつ状態」は誰にでも起こりうる疾患です。そして,現代のスト
レス社会の中で実際に患者さんが増加しております。日頃から,睡眠や食事の
状態がうまくいっているか,興味や関心が失われていないかなどに注意を払う
ことが大切であり,何らかの変化があれば早めに相談するように心がけたいも
のです。そして,周りの方は,本人の辛さを理解し,負担を取り除く手助けを
していただければと思います。