「糖尿病と上手につきあう方法」


向井田胃腸科内科医院 向井田 英明


はじめに

 平成14年の厚生労働省による糖尿病実態調査によると,糖尿病が疑われる人
は約740万人,糖尿病の可能性を否定できない人は約880万人,合計では1,620
万人であり,これは成人6.3人に
1 人の割合となる。平成 9 年の調査と比較すると前者は50万人,後者は100
万人も増加している。ちなみに八戸市の糖尿病患者は約 1 万 2 千人と推定さ
れる。

糖尿病とは

 糖尿病は尿糖により発見されることが多いが,尿糖の原因は血糖が上昇する
ためであり,インスリンの分泌低下や,作用不足(抵抗性)により血糖は上昇
する。
 糖尿病は大きく 1 型と 2 型に分けられるが,日本人の95%以上は 2 型で
あり,40歳以上,肥満または肥満の既往のある人に多く,自己抗体(GAD 抗体
など)は陰性である。糖尿病は初期のうちははっきりした自覚症状がないので,
早期発見には健診を受けることが大切である。
 診断は血糖値により行われ,空腹時血糖126mg/dl以上,随時血糖(食後血糖)
200mg/dl以上,糖負荷試験 2 時間血糖200mg/dl以上のいずれかが二度認めら
れれば糖尿病の診断となる。ただし,高血糖の自覚症状,網膜症,HbA1c 6.5
%以上がある場合には,前述の血糖値が一度認められれば糖尿病の診断となる。
この HbA1c とは赤血球のヘモグロビンにブドウ糖が非酵素的に結合したもの
で,赤血球の寿命が120日であることから, 1 〜 2 か月の平均血糖値を反映
する。基準値は5.8%以下であり,糖尿病でも6.4%以下にすることが望ましい。

糖尿病の合併症

 糖尿病を治療せずに放置し高血糖状態が長く続くと恐ろしい合併症が起きて
くる。糖尿病網膜症,糖尿病腎症,糖尿病神経障害を三大合併症という。
1 .糖尿病網膜症
 網膜症の怖さは自覚症状がないまま進行することであり,早期に適切な治療
しなければ失明することがある。実際,後天性失明の原因疾患の第 1 位であ
り毎年3,000人以上が失明している。定期的に眼科を受診し診察をうけること
が大切である。
2 .糖尿病腎症
 腎症は人工透析の原因疾患の第 1 位であり,毎年11,000人以上が透析導入
となっている。治療では血糖の管理のみならず血圧の管理が重要であるといわ
れている。
3 .糖尿病神経障害
 神経障害は多彩であり色々な症状があるが,よく認められるのは末梢神経障
害であり,下肢のしびれ,ほてりなどの症状が出現する。原則として両側性で
ある。

糖尿病の治療(薬物療法以外)

1 .食事療法
 ポイントとしては,・腹 7 分目 ・食品の種類は30種類以上(バランスの
よい食事) ・脂質を控える ・朝食,昼食,夕食を規則正しく ・食品交換
表の使用 ・体重の定期的な測定,などがある。
2 .運動療法
 運動を行う前にはメディカルチェックを受けることが大切である。運動とし
ては 1 回30分ぐらいの少し汗をかく程度の歩行を 1 日 1 〜 2 回,週 3 回
以上行うことをすすめている。食べ過ぎを運動で取り返すという考えはよくな
い。あくまでも食事療法あっての運動療法である。
おわりに
  1 日たかが100kcal減らすだけでも 1 年続ければ−36,500kcalである。脂
肪 1 kgは約7,000kcalであるので 1 年間で約 5 kgの体重を減らすことができ
る。ちりも積もれば山となる。大きな努力より小さな努力を続けることが大切
である。糖尿病の治療に王道はなく,糖尿病と上手につきあうためには地道な
努力が必要である。