「心の健康」
上田 展久
1.心の健康とストレス
日常耳にする言葉にストレスという言葉があります。ストレスとは日常の生
活を通じて心身が受ける刺激(この刺激をストレッサーという)に対して起こ
る心身の変化や歪みの状態です。現代社会はストレスの社会といわれるように,
日常生活には様々なストレッサーが存在します。家庭では家事や育児疲れ,嫁
姑問題などが,職場では配置転換やリストラ,上司や部下との人間関係などが
あります。ストレスが長く続くと心の病気になってしまいますが,病気になる
前段階があり,その時期を把握することが大切です。ストレスが続くと,疲れ
やすくなったり面白くなくなったりという危険信号が発せられます。この時期
を警告期といいます。さらにそのままストレスが続くと,軽い興奮状態になり
普通より調子が良く感じるようになります。この時期を抵抗期といいます。こ
の抵抗期は一時的なもので,残ったエネルギーを使い果たす時期でもあります。
この時期をさらに過ぎると,全く踏ん張りがきかなくなり,自分の力ではどう
にもならなくなります。この時期を消耗期といい,うつ病や神経症など心の病
気を発症する時期でもあります。消耗期に入る前に適切なストレス解消をする
ことが心の健康には必要です。
2.うつ病について
心の病気の一つにうつ病があります。うつ病とは憂うつがひどく,そのため
に今まで出来ていた仕事や家事など基本的な日常生活が送れなくなる病気です。
うつ病は「心のカゼ」と言われるように,誰でもかかる可能性があります。う
つ病の主な症状は気分が憂うつになる,やる気が起きない,自分を責めてばか
りいる,不安で落ち着かない,眠れない,食欲がわかない,自分はいないほう
が良いと思うなどで,ひどくなると自殺してしまうこともあります。うつ病は
必ず回復する病気ですが,回復には近道があります。それは服薬と休養です。
うつ病の90%以上は抗うつ薬によって改善するといわれています。また休養も
薬物と同じくらい有効です。逆にうつ病の人に対して,やってはいけないこと
は励ますことです。うつ病の人は励まされてもそれに答えることができない自
分に罪悪感を抱き,より症状が悪化してしまう危険があります。うつ病は放っ
ておくと自殺してしまう危険のある病気ですが,治療すると治る病気です。
3.神経症とは
神経症とは精神的原因(心因)によって精神的,身体的症状が引き起こされ
た状態で,症状によっていくつかの種類に分けられます。急に不安が襲ってく
る不安神経症,広場や集団が怖くなる恐怖神経症,ある考えが頭から離れなく
なり同じことを何度も繰り返してしまう強迫神経症,急に意識を失ったり倒れ
たりするヒステリー神経症,憂うつな気分になる抑うつ神経症,何か体の病気
になったのではないかと心配してしまう心気神経症など,その症状によって分
けられます。神経症の治療には 3 本の柱があります。一つは抗不安薬や抗う
つ薬などを用いた薬物療法,もう一つは精神科的面接やカウンセリングなどの
精神療法,そして最後の一つは環境調整です。これらの 3 つが適切に行われ
ることによって神経症の治療は成立します。そのため病院−患者−家族の連携
が重要です。
4.心の健康づくり
心の健康を維持するためにはストレスに対して上手に対処することが必要で
す。ストレスをためないコツは自分なりのストレス解消法を持つことで,その
ストレス解消法を定期的に実践していくことです。ストレス解消法は個人個人
で異なるため,一般的な方法をいくつか試してみて,自分に合う方法を探すの
が良いでしょう。十分な睡眠と休養,適度な運動,良い人間関係,安心できる
場所などがストレス解消に役立つとされています。また心の病気かどうか迷っ
た場合は専門医に相談することも大切です。