「耳の聞こえが気になったら」


洲ア耳鼻咽喉科気管食道科医院 洲ア 洋


 耳鼻咽喉科では,呼吸,飲食,話すという大切な機能と五感のうち嗅覚,味
覚,聴覚の3つの感覚を専門としています。本日は耳の日にちなみまして聴覚の
病気,難聴についてお話しをしたいと思います。

 難聴には外耳と中耳に起因する伝音性難聴,蝸牛に起因する内耳性難聴,蝸
牛より中枢に起因する後迷路性難聴があります。これら難聴はどの年代にも生
じますが,各年代ごとに難聴になる病気や予防法,治療法等をお話ししたいと
思います。

 まずは生まれたての新生児についてです。生まれつきの難聴は正常新生児の
1,000人に 1〜2人,ハイリスク新生児にいたっては100人に3 〜 5人も見られま
す。言語発達の最も重要な時期は生後6か月までと言われていますので,早期発
見,早期対応で言語発達を促し社会適応を可能にしなければなりません。その
ため新生児聴覚スクリーニングの早急な普及が望まれますし,医師から聴覚ス
クリーニングを勧められたら,是非受けるようにして頂きたいと思います。

 次は乳児〜幼児期についてです。小さい子供の耳管は高低差が少ないため,
鼻やのどの細菌やウイルスが耳に到達し易く,このため大人に比べ子供は中耳
炎にかかりやすくなっています。また,免疫が未熟な内から集団保育を受ける
機会が増えている事,抗生剤が効かない細菌が増加している事等から反復性中
耳炎が増加しています。これによる癒着性中耳炎,真珠腫性中耳炎等の難治性
中耳炎に移行しやすくなるため,その都度しっかりと治療する事が望まれます。
また,約2週間程保育園をお休みすることが可能であれば免疫力も回復し,次の
感染にかかりにくくなります。とにかく耐性菌問題は深刻化していますので,
医療側では適正な抗生剤を使用し,家族側では患児の鼻汁排出を積極的にして
あげる事が必要です。

 次は学童期〜思春期についてです。おたふく風邪による片側の急性高度感音
難聴(ムンプス難聴)が約1万人に1人発症すると言われてます。小学生になり,
難聴に気付いて或いは指摘されて受診するケースが多い印象があります。万が
一の確率ではありますが,ムンプス難聴は現在治療法が無いためワクチン接種
をお勧めします。他に小学校中学年の女児に好発する心因性難聴があります。
背景には社会環境の複雑化があげられ,耳鼻科医の他,精神神経科医や心療内
科医の診察が必要になります。

 次は成人についてです。伝音性難聴,感音性難聴それぞれに多数の疾患があ
りますが,この中から老人性難聴につてお話したいと思います。

 人の聴覚は父母のDNAが結びついた瞬間から決められた道筋をたどり衰え
ていくものです。20歳代から耳の老化は始まり,加齢による難聴を自覚するの
は早い人で35歳,平均は65歳です。難聴に気付いても年だからとか一日中家に
居るから構わないでいると,聴覚刺激が無いため脳の聞こえ担当部分が加速を
つけ衰えて行き,肝心なとき機能しなくなってしまいます。では,難聴を自覚
したときどうすべきか? 脳への音刺激が必要ですし,高齢化社会における老
人の役割が今後更に重要になっていくことから補聴器を考えてみてはどうでし
ょう。クリントン元米大統領も大統領在任中の50歳頃より補聴器を使用してい
るそうです。ただし,補聴器を付けるとかえって聞こえづらいと言われる方も
少なくありません。これはより良い補聴を得るためのいくつかの注意点に気を
付けることで解決します。このことは医師や専門店で十分に説明及び指導を受
けて下さい。より良い補聴を得る事で,積極的に社会参加をして頂き,豊かな
経験や知恵を生かし社会活性化の一端を担って頂きたいと思います。