「不眠症について」
みわか神経科内科 三川 博
1)はじめに
快食,快眠,快便と言われるように,昔から睡眠は健康のバロメーターのひ
とつとして重視されて来ました。また,寝る子は育つと言われるように,子供
の成長にとって,十分な睡眠の確保は欠かせない要件です。その反面,現代は
夜間労働者の増加や多様なストレスなど,十分な睡眠の確保がむずかしい時代
です。スリーマイル島の原発事故やスペースシャトル・チャレンジャーの事故
の原因は,共に担当官の睡眠不足による判断ミスであったと言われています。
たかが寝不足くらい,と侮ることはできません。安全,円滑な社会活動のため
にも,一人ひとりが睡眠に対する十分な知識をもち,睡眠の確保に心掛けてゆ
くことが望まれます。
2)睡眠の知識
人の眠りはレム睡眠(夢を見る眠り)とノンレム睡眠(夢を見ない眠り)か
ら成り立っています。レムとは rapid eye movement(急速眼球運動)の略語
で,丁度夢を見る眠りの最中にピクピクと小刻みに眼球が左右に動くことから
名付けられました。ノンレム睡眠は浅い眠りから深い眠りに至る4段階があり,
〔ノンレム睡眠+レム睡眠〕のワンセット90分の睡眠単位を,一晩に4,5
回繰り返すのが成人の睡眠の形であるとされています。
年齢によって眠りの深さやパターンに変化がおこります。子供は睡眠時間が
長く,深いノンレム睡眠をもつことができますが,老人になってくると,3,
4段階の深いノンレム睡眠はなかなか得られにくく,また睡眠の持続も短く,
何回も目覚めてしまうという形になります。老人が不眠症になりやすいのは,
脳の老化という生理的な変化が背景にあるためもあります。よく相談される「金
縛り」というのは,レム睡眠の最中にたまたま目覚めてしまったときにおこる
現象で,例えば悪人に追いかけられるような怖い夢をみながら,早く逃げなけ
ればと思うが全く体が動かず,気持だけが焦るという体験となります。レム睡
眠中は脳は活動していても筋肉は弛緩しているためにこういう結果になったも
ので,キツネが憑いたのでも,精神病になったのでもありません。
3)睡眠の役割と不眠の影響
睡眠は疲労回復,栄養蓄積,精神機能維持,免疫機能維持,内分泌機能維持
等の役割があると言われています。他方不眠が続くことは,心臓や血管系の疾
患,うつ病などの精神疾患等を増加させると共に,心身の能力低下,安全管理
能力の低下を引き起こすとされています。
4)不眠症の原因と類型
不眠症の原因は,心理的,身体的,生活習慣的,環境的の4原因があります。
また不眠症の類型として,入眠障害,中途覚醒,早朝覚醒,熟眠障害の4類型
があります。
5)不眠症の治療
原因によって,個別の治療,指導,カウンセリングを行いますが,主として
行うのは睡眠薬による薬物療法です。
6)睡眠薬の効果と正しい知識
睡眠薬は入眠促進,熟眠作用,睡眠時間延長,睡眠の質の向上等,睡眠のす
べての点を改善します。未だに睡眠薬に対する誤解(一度使うと止められない,
強い副作用がある,ボケる等)があるのは残念ですが,現在の睡眠薬は安全性
が高く,多量服用しても死亡する危険は皆無に等しく,毎日服用しても全く問
題ありません。
7)快眠の心得
物理的環境の整備(温度・照明・音等),生活習慣の改善(嗜好品・規則的
生活等),ストレスの解消,眠りに対する意識改革などをポイントに,明日か
らの眠りを上手に見直してみて下さい。