「脳卒中の予防 〜寝たきりにならないために〜」
伏谷内科医院 伏谷 靖
去年の参加者アンケートに「スライドの字が小さくて読みにくい」「もう少
し詳しく具体的な内容がほしかった」「暑い日にカーテンを降ろしたため具合
悪くなった」などがあった。字数の少ない興味を持てるスライド作りをこころ
がけていた俄講師としてはいささか鼻白んだ末,数枚の標語的レジュメを作成
して配布,それをキーワードに話を膨らませることにした。
本日は「家庭看護教室」と銘打ってある。看護する立場からみた脳卒中予防
の話でなければならない。受講者は40〜50代の女性中心なので,主人・舅
を看る立場に視点を置いて話すことにした。要点は1長期的予防は高血圧・糖
尿病・高脂血症のコントロール2短期的予防として頭痛・頭重・めまい・しび
れなどの訴えに気配りすること,この2点に絞った。1は常識的な話ですんだ。
しかし,2はごくありふれた症状で脳卒中の警告反応としては絶対的なもので
はない。当てにならない自覚症にとらわれないこと。軽微な症状に神経質にな
ることもないが,全く無関心も治療側にとっては困る。例えば,脳ドックでは
16.6%もの人に明らかな脳卒中発作のない脳梗塞が発見されている。しか
も,この無症候性脳梗塞は高血圧によって10年も発症が早められる。血圧(脂
質,血糖も同様)が高いのが分かっていても自覚症がないことをいいことに治
療しないで過ごすことの危険性を強調した。家庭看護者として家族の通院状態,
服薬状況に目を光らせてほしい。降圧療法の最大の目標は脳・心・腎といった
主要臓器の保護療法であることを認識してもらいたい。くれぐれも服薬中断の
ないよう監視してほしい。日頃から,通院・服薬の無断中断に悩まされ続けて
いる者のくどきになった。説教めいた話だけでは眠くなるだろうから身近な実
例を挙げて説明することにした。
〔症例1〕79歳男性。高血圧,高血糖で受診。動作緩慢,反応は鈍く,全
く表情を欠き痴呆老人そのもの。奥さんの付き添いがなければ,通院できない
状態であった。さらに治療継続には奥さんの協力を必要としたが,幸いなこと
に非常に献身的な家庭看護が得られた。血圧,血糖値のコントロールがついた
頃,にこやかな表情に一変し,挨拶もしっかりとでき,スタッフと冗談を交わ
すようになっていた。最近は勿論付き添いなしで通院中である。なによりも感
心したのは診察を終えると,次回の受診日を自分から申告し,食事抜きかどう
かを確認することであった。生活の質の向上は血圧の24時間自由行動下モニ
ターの結果にも現れていた(図1)。見守りという家庭看護の重要性を認識し
てもらえたと思う。
〔症例2〕65歳女性:高血圧,高脂血症
食事・運動療法を主体とした5年間の経過を示した(表1)。数字的にはまだ
コントロールの甘さはあるものの,なんとか正常域に近づきつつある。危険因
子の少ない長寿家系という環境を勘案して脂質降下剤はまだ使用していない。
薬剤に頼らない生活習慣病治療の基本を強調した。そして自覚症の有無にかか
わらず定期的な通院と検査が必要であること,家庭血圧のみで健康を維持でき
ると思わないこと。動脈硬化の危険因子の検索がいかに大切かを承知した上で,
家族への適切な助言・見守りができるようにしてほしい。
最近,保健課から今回の健康教室について参会者のアンケート集が届いた。
「考えが甘いことに気づかされた」「実症例の話で病気への見方が変わった」
などの意見に,少しは役立てたかなと思った次第である。