「耳のきこえが気になったら 老人性難聴と補聴器について」
西村耳鼻咽喉科医院 西村 哲也
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本日は耳の日にちなんで,特に「老人性難聴と補聴器」についてお話しをし
たいと思います。
老人性難聴とは,きこえに関与する組織が老化する事によっておこる難聴で
す。これは両方の耳にほぼ同じ程度で起こってきます。老化は主に,きこえの
神経の末端である内耳の蝸牛の感覚細胞の変性や消失という現象でおこってき
ますが,更には加齢とともにその中枢の聴神経から脳幹や大脳の老化も関係し
てきます。老人性難聴の特徴としては,高い音のきこえから悪くなってくる,
音が歪んだり響いてきこえて言葉のきき違いが起こる,更に言葉のききとりが
悪くなるため,早口がききとりにくい,大勢での会話がききとりにくい等とい
った問題が起こってきます。
特に聴神経等中枢の部位が老化してくると言葉のききとりが非常に悪くなり,
補聴器の効果も極めて低くなります。その為言葉のききとり検査である語音聴
力検査が補聴器の効果を大まかに把握する上で重要です。耳と眼の老化を比べ
た場合,老人性難聴では主に眼底に相当する部分が老化しますので,これを補
う補聴器にはメガネ以上の役割が要求されます。しかし,どうしても性能的限
界がありますから,補聴器に少しずつ脳の方で慣れていく練習が必要です。又,
一人ひとりの耳のきこえ方にうまくフィットするよう補聴器を精密に調整する
必要があります。
最近の補聴器の種類は,主に箱型補聴器,耳掛け型補聴器,耳穴型補聴器の
3つに分けられますが,1997年頃からすべてのタイプにデジタル型の補聴
器が登場しています。デジタル型補聴器は従来のアナログ型に比べ,補聴器を
通した音がききやすい,音質がよい,言葉がはっきりきこえる等の利点があり
ますが,現段階では高機能タイプのアナログ型より少し良い程度であり,欠点
としてコンピューター内臓の為やや大きめで値段がアナログ型の約2倍と高額
であり,アナログ型を選ぶかデジタル型を選ぶかはまだケースバイケースのよ
うです。
補聴器に慣れる練習は,本を声を出して読む→テレビやラジオの音を聴く→
1対1での会話→2,3人での会話,の4つのステップを合計1〜3か月位か
けて練習して下さい。2週間目位で補聴器の不具合を感じる時は補聴器店で再
調整してもらって下さい。補聴器が実際に苦手とする場合は,駅やデパート等
騒がしい場所での会話,会議等多人数での会話,講演会や映画等話し手が遠い
場合,話し相手が早口や言葉がはっきりしない場合等です。
これらの対策としては,ボリュームを絞って話し手に近づく,話に集中し口
元をよく見る,高機能タイプの補聴器を選ぶ,補聴器の両耳装用,前の席につ
く,各種補聴援助システムを利用する,話し手に協力してもらう等です。補聴
器の両耳装用は,騒がしい場所での言葉のききとりがよい,音の方向感や動き
がわかる,片耳より小さい音がわかる,音質がよい等の利点の一方,補聴器を
2つ使用するという経済的負担と煩わしさもありますから,一つの目安として,
左右差の少ない中等度以上の両側性難聴の方で会議等で必要な方は,両耳に装
用した方がよいかと思われます。
最後に,年配の方が耳のきこえが気になったら,まず迷わず耳鼻咽喉科へ行
って下さい。年配の方の難聴の原因は,老人性難聴だけでなく実に様々な原因
がありますし,病気によってその治療法も全く異なります。又老人性難聴でも,
軽度の場合,補聴器が必要ないこともあります。本当に補聴器が必要なのかど
うか判定してもらって下さい。そして,老人性難聴は進行しますので知らない
間に補聴器が耳に合わなくなっている場合もありますから,定期的に年に一度
は耳鼻咽喉科で聴力検査を受けて,きこえ具合をチェックしてもらって下さい。
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