「糖尿病からあなたを守るポイント」
青森労災病院 日向 豪史
糖尿病は非常な勢いで増えています。最近の統計によると,日本人では現在,
約700万人が糖尿病に罹患していることがわかっています。これは,40歳
以上の10人に1人の割合です。糖尿病は,ほとんどは無症状のため,発見さ
れずにいる人が非常に多いと思われます。さらに,健康診断などで糖尿病を指
摘されても,医療機関にかかっていない方も多くいると思われます。実際に糖
尿病として医療機関において治療されている患者さんは全体の1/3程度とさ
れています。
さて,糖尿病は,なぜ治療しないといけないのでしょうか? それは,糖尿
病にかかり,その病状が不良のままでは,数年の経過で合併症が発症するから
です。糖尿病には特徴的な3つの合併症があります。目(網膜症),腎臓(腎
症),神経(神経障害)です。網膜症は進行すると,失明の危険にさらされる
ことになります。実際,糖尿病が原因で失明する患者さんは毎年4,000人
います。腎症が進行し,腎機能がきわめて低下すると,人工透析や腎移植が必
要になります。糖尿病が原因で人工透析にいたる患者さんは,毎年11,00
0人で,増加傾向です。
日本人に糖尿病が増えてきた原因を考えてみましょう。日本人は,これまで
飢えとの戦いの長い歴史があります。その飢えに対して,穀物中心の食事でし
た。一方,欧米人は,動物性脂肪の多い高カロリーの食事でしたが,血糖値を
正常に維持するために,体内で多量のインスリン分泌が必要です。近年,ライ
フスタイルの欧米化すなわち,脂肪の多い食事,ファーストフードの出現,自
動車社会などにより,もともとインスリン分泌能の強くない日本人には,糖尿
病はむしろ生じやすい環境になってきたと言えるでしょう。
糖尿病になりやすい状況として肥満が挙げられます。特に内臓に脂肪のつく
内臓肥満は糖尿病になりやすいことがわかっています。また,2型糖尿病の2
/3はやや肥満か肥満を呈しています。肥満は,TNF−αや遊離脂肪酸を介
して,インスリンの働きを妨害します。内臓の脂肪は,TNF−α,遊離脂肪
酸を皮下の脂肪に比して多く分泌するとされ,特に,内臓肥満は,インスリン
の働きを妨害し,糖尿病になりやすいと考えられています。
ここで,糖尿病の発症のメカニズムについて触れます。インスリンは,膵臓
のβ細胞というところで,血液中のブドウ糖を感知して必要量が分泌されるし
くみになっています。ブドウ糖は,人間が生きるために,もっとも必要なエネ
ルギー源で多すぎても,少なすぎてもよくありません。インスリンは,体のな
かでブドウ糖を利用できるようにする唯一の物質です。インスリンの働きが悪
くなると,ブドウ糖が血液のなかにたまり,高血糖になります。そして糖尿病
が発症するとされています。ランゲルハンスという科学者が膵臓のなかに,特
別な細胞の集団があることを発見しました。ランゲルハンス島と呼ばれ,イン
スリンの分泌細胞が含まれることがその後の研究者らによって明らかにされま
した。
糖尿病には大きく2種類があります。1型と2型です。1型糖尿病は何らか
の理由で膵ランゲルハンス島がまちがって攻撃されてしまうものです。インス
リン分泌細胞が破壊されてしまうため,たいていの場合はインスリン治療が必
要になります。2型糖尿病,大部分の糖尿病はこれで,食べ過ぎ,運動不足,
ストレス,遺伝などが原因でおこります。治療の基本は食事療法,運動療法。
薬物療法は補助的に用います。
糖尿病はほとんどが無症状なので,診断のためには検査を受けることが必要
になります。採血にて血糖値を調べることになります。随時血糖200r/
以上,または早朝空腹時血糖126mg/dl以上,または75g経口ブドウ
糖負荷試験2時間値200mg/dl以上がある場合,日をかえても上記の結
果である場合,糖尿病と診断されます。また,口渇,多飲,多尿などの高血糖
に由来する症状がある場合やHbA1c6.5%以上,糖尿病の合併症がある
場合は糖尿病と診断されます。
最近の研究により,糖尿病にかかりやすい遺伝子の異常が発見されてきてい
ます。しかし,糖尿病は一つの遺伝子異常で発症するのではなく,いくつかの
遺伝子の異常があって発症することが解明されてきました。原因がわかると治
療法も変わってゆくだろうと考えられます。