「動脈硬化と生活習慣病」
類家内科クリニック 及川 広則
日本人の三大死因は,癌,脳卒中,心臓病であることは皆さんご存知のこと
と思います。
わが国はかつて脳卒中大国と呼ばれていましたが,高血圧治療の普及などに
より30年前のピークに比べ約2/3に減少しました。
一方心臓病による死亡は食生活の欧米化,人口の高齢化を背景に1960年
以降増加の一途をたどっています。虚血性心疾患による死亡は1970年以降
横ばいに推移しており,患者数は過去20年間に3倍に増加しております。
動脈硬化には,大きく分けて二つ在ります。
一つは,血管内膜にコレステロールが沈着しておこる粥状硬化,これは比較的
太い血管に起こり心筋梗塞や脳梗塞の原因となります。二つ目は高血圧が原因
で細い血管におこる細小動脈硬化,これは脳出血やラクネ梗塞の原因となりま
す。
動脈硬化の危険因子として,高血圧,高脂血症,喫煙,糖尿病,肥満,加齢
および性(男性であること)が挙げられています。高血圧,高脂血症,糖尿病
および肥満は,運動不足や過食,ストレスといった生活習慣との関連が指摘さ
れており,喫煙習慣とともにコントロールが可能で,努力によってリスクを減
らすことができます。これらの病気を成人病という呼び方はやめ「生活習慣病」
と呼ぶようになった所以です。
収縮期高血圧があると脳出血の危険性が3.3倍,脳梗塞が2.1倍,心筋
梗塞が4.4倍。拡張期高血圧があると脳出血が9倍,脳梗塞が4.8倍。コ
レステロールが240mg/dl以上で心筋梗塞の危険性が2倍となります。
コレステロールを10%下げると危険性が20%減ります。タバコを一日19
本以下吸う方は,危険性が2倍,20本以上吸う方は3倍となります。高血圧,
高コレステロール血症,喫煙の三大危険因子のすべてが在ると一つだけの人よ
り危険性が3倍となります。糖尿病があると更に危険性がその2倍となります。
高血圧の基準が厳しくなり140/90mmHg以上を高血圧症と呼び,正常
血圧は130/85mmHg,至適血圧は120/80mmHgとされています。
総コレステロール正常値は200mg/dl以下,220mg/dl以上を高
脂血症と呼び,中性脂肪正常値は150mg/dl未満で150mg/dl以上
を高脂血症と呼びます。最近はLDLコレステロールが直接測れるようになり,
正常値は120mg/dl未満で140mg/dl以上は高脂血症と呼びます。
LDLコレステロールは悪玉コレステロールとも呼ばれていますが,動脈硬化
の原因となるのは酸化したLDLコレステロールと考えられています。酸化の
原因としては喫煙や糖尿病,過激な運動などがあります。古くなった油やソー
セージ,チーズ,魚の干物などは酸化したLDLを増やします。大豆製品や緑
黄色野菜は酸化を抑えます。緑茶も酸化を抑えます。
糖尿病の基準も厳しくなりました。正常値は早朝空腹時血糖110mg/d
l未満,随時血糖140mg/dl未満。早朝空腹時血糖126mg/dl以上,
随時血糖200mg/dl以上は糖尿病です。
植物油がコレステロールを低下させることがよく知られていますが,植物油
に多く含まれるαリノール酸の摂りすぎはアレルギーの原因となります。魚や
海藻,緑黄色野菜,芋,豆,緑茶に多く含まれるαリノレン酸は悪いコレステ
ロールを下げるとともにアレルギーを抑えますので,普段の食事に気をつけた
ほうが良いでしょう。
1) 食事の内容に気をつける,2)禁煙する,3)一日30分以上息が弾
む程度の運動を続ける,4)BMI肥満指数を25未満にする,5)一日5g
程度の少量のアルコール摂取,以上5つに気をつけることで動脈硬化の進行を
遅らせ心筋梗塞などを減らすことが出来ます。