「健診でわかる病気とその予防」
嶋田医院 嶋田 哲治
「ナスが癌に効くって知ってるかい? 先生」……。「最新情報だってテレ
ビでやってたよ」。最新情報と言われると怯んでしまう自分も情けないが一応
切返してみる。「癌といっても色々あるけど何の癌に効くのかな? 予防?
それとも治療に使うの?」「……とにかく効くらしい!みのもんたでやってた
もん」。
こんな珍説を聞かされることはありませんか。私は前回の健康教室で「健康
番組の弊害」について触れました。しかし当然ながらその現状は変わっていま
せん。そこで今回は珍説の出来る過程を解明すべく例の番組を検分し,ある程
度の成果をあげましたのでここにご報告致します。私に課せられた健康教室の
題とはかけ離れた内容ですが,講演の1/4をこの話題にあてたということで
ご容赦下さい。
例のチャンネルに合わせるとM氏が主婦に間抜けな質問をしていた。「寝る
時は何を着てるの? ネグリジェ」。はずかしそうに答える主婦をからかいな
がら,「ネグリジェが一番心臓にいいんです!」。今日の話題は心臓らしい。
会場に向かって質問。「夕方になると足がむくむ人は手を挙げて」。約7割が
手を挙げる。M氏は解説の医師に問いかける。「どうしてむくむんですか?」。
師曰く「心臓が弱っているからです」。すごい断言! 他の可能性には一切触
れず心臓が弱いと言い切ってしまうこの師にまず驚く。しかし番組はそのペー
スで進んでいく。じゃあむくむ人はどうすれば良いか。主婦向け番組の常とし
て話題は食物へ。「オレンジ,キュウリ,カボチャ,さあこのうちどれを食べ
れば良いのでしょう?」。 答えはキュウリ。ざわめく会場。師のコメントは
ここではひかえめ。「キュウリには利尿作用があるので毎日2本食べれば,む
くみがとれるでしょう」。このコメントは間違ってはいない。心不全のむくみ
は利尿をつけて改善させるという核心をついた発言であるにもかかわらず,そ
のことは繰り返さず,同席のゲストに「私,毎日キュウリ食べてるー。先生,
キュウリがいいんですね」と言わせ,師「そうです」。M氏「キュウリなんで
す」と念を押されると,視聴者の頭には「心臓」「キュウリ」というキーワー
ドしか残らない。さらにキュウリを毎日生で2本食べるという非現実的な行為
も忘れさせてしまう。何気なく見ている人はこれで「キュウリは心臓にいいら
しい」と思い込んで不思議はない。珍説の出来上がり。
間違った情報ではなくても,伝え方が一方的で,無理矢理,食物や飲物など
をからめた結論を持ってくる。珍説の出来る過程は一種の洗脳に似たものと思
えました。
世の中にはやはり,この番組に迷惑を感じ時には憎悪を抱いている人もいる
らしく,新潮45という雑誌に「間違いだらけの人気健康番組……(実名)…
…」なる長い記事が掲載されています。これを書いた大学教授は,色々なパター
ン別に数々の珍説のウソを解明していきます。私は読んでいて実に痛快なので
すが,興味のある方には一読をお勧めします。お声をかけて頂ければお貸しし
ます。
要するに,テレビで言ってることを鵜呑みにしないようにしましょう,とい
う啓蒙活動を今年もまたやってしまいました。会場でのうけは良かったのです
が,結局みのさんにはかなわない。ただ,今後も“かかりつけ医”としてやっ
ていくためには,結構あなどれない問題ではないでしょうか。