「知って安心!大腸がんから身を守る」
岸原病院 岸原 輝仁
1 大腸がん動向
現在国民の2人に1人が癌に罹患する時代,大腸がんも同様に罹患率・死亡率とも
に増加傾向にあり,1975年は年間2万人程度であった罹患数は2020年に入り約15万
人以上となった。臓器別がん罹患数では2019年大腸がんは男性・女性合わせて第1位
である。また2020年の大腸がん死亡数は肺がんに次いで第2位である。都道府県別年
齢調整死亡率(2014年)を見ると残念ながら青森県は男女ともワースト1位であった。
大腸がんの年齢階級別罹患率(2019年)は40代から罹患率が上昇し始め50代を超え
ると罹患率が年々上昇する。このため50歳を過ぎた辺りで一度は大腸内視鏡検査を
受けることが推奨される。部位別がん患者5年相対生存率を見ると男性は大腸がんが
最も高く,女性は乳がん子宮がんに次いで大腸がんが高いため検診による早期発見&
早期治療で完治が期待できる。
2 大腸がんの診断と治療
大腸は右下腹部から時計回りに小腸を取り囲むように存在する全長約1.5〜2mの
管状の臓器であり主に体内への水分の吸収を行っている。そのため水分量の多い近
位結腸ではがんによる症状が現れにくく,遠位結腸では血便や便柱狭小などの症状が
現れやすい。また統計的には大腸がんの約7割は遠位結腸に発生することが知られ
ている。大腸がん検診で陽性,または有症状者が精密検査(大腸内視鏡検査)を受
けることにより大腸がんは発見され,早期であれば内視鏡的治療,がんの深部浸潤が
疑われる場合は外科的治療,化学療法,放射線治療がステージに応じて選択される。
尚,大腸内視鏡による内視鏡的ポリープ切除群におけるがん発生率に基づく標準化
死亡比は0.47との報告があり,死亡率53%低下が示唆されている。
3 大腸がん予防と検診
大腸がんのリスク要因としては遺伝因子,生活習慣と環境因子が要因として考えら
れており,主な遺伝的リスク要因としてミスマッチ修復遺伝子変異や遺伝子非ポリポ
ーシス大腸がん,FAP症候群,リンチ症候群,MUTYH関連ポリポーシスなどが知られ
ている。食生活においてリスクを増加させる要因として赤肉や加工肉;(毎日50グラム
の加工肉摂取でリスク約18%増加),アルコール;(1日に50グラム以上のアルコール
摂取でリスク52%増加),喫煙;(喫煙者は非喫煙者と比較してリスク18%高い)が報告
されている。またリスクを下げる要因として食物繊維摂取;(毎日10グラムの食物繊維
追加でリスク10%低下)が報告されている。生活習慣として肥満;(BMIが30以上で20-
30%のリスク増加),適度な運動;(定期的な運動を行う人々でリスク24%減少)が報告
されている。
大腸がん早期発見のためには検診(便潜血検査)を受けることが最重要である。
便潜血検査による大腸がん死亡率の減少効果は約60%と報告されており,がん検診
の中で死亡率低下が最もよく証明されている検査である。便潜血検査を受けた一定の
母集団では約6%が陽性となるが,陽性者の中で大腸がんと診断される者は約5%
であり,その60%以上は早期がんである。残りの40〜60%には大腸ポリープ(腺腫)
が指摘される。一方,便潜血検査陰性となった94%の内,偽陰性率は約0.1〜0.2%で
あるため毎年の検診が推奨される。さらに便潜血検査陽性者が精密検査未受診であった
場合,大腸がん死亡リスクは4〜5倍に上がるとの報告もあることから,便潜血検査陽
性者は必ず大腸内視鏡検査を受けることが推奨される。