「認知機能にも影響?加齢に伴う耳の病気について」
かねた耳鼻科医院 金田 裕治
一般的に加齢に伴う難聴は50歳頃から始まり,65歳を超えると急増し,その
割合は60歳代前半では5〜10人に1人,60歳代後半では3人に1人,75歳以上
になると7割以上の人が難聴になるとのデータがあります。50代で高い音が聞
こえにくくなり,年齢とともに大きな音も聞こえにくくなる傾向があります。
また,両方の耳が同時に聞こえにくくなり,語音弁別能が低下するのも老人性
難聴の特徴です。
難聴は感音難聴と伝音難聴の二つに大きく分けられます。感音難聴は,内耳
の蝸牛にある有毛細胞という音を感じる細胞の減少によるものです。一方,伝
音難聴は鼓膜など音を伝える中耳や外耳の異常によって生じます。
老人性難聴は感音難聴の一種で,加齢により有毛細胞が損傷することで起き
ます。外耳から入った音は,中耳を通り耳小骨のてこ作用で増幅され,蝸牛に
伝わります。蝸牛には鼓膜から伝わってきた音の振動をキャッチする有毛細胞
という細胞があります。有毛細胞は,加齢とともに壊れ,再生することは難し
く,個人差はありますが音を聞き取る機能は低下するという特徴があります。
初期症状として顕著なものには,人の声や物音が聞こえづらい,自分の話し声
が大きくなった,後方の会話に気がつかないなどがあります。
また,聴力が正常な人に比べ,軽い難聴の人は約2倍,重い人に至っては約
5倍の割合で認知症を発症している報告があります。さらに,加齢や疾患など
で身体的・精神的な多くの機能が衰えてしまうフレイルにも,難聴が大きく影
響しているというデータがあります。その対処法の一例として「補償を伴う選
択的最適化の理論」(Baltes, American Psychologist. 1997)を紹介しまし
た。
診察では,どのような症状があるのかを問診し,聴力検査を行います。聴力
検査は純音聴力検査と,50音を聞き取る語音聴力検査を行います。その他,CT
やMRIを行うこともあります。また,40歳前後から難聴を自覚していたり,進
行が早かったりする場合は遺伝性難聴を疑う必要があります。
老人性難聴を含めた感音難聴の場合,薬や手術での改善は見込めないため,
補聴器を装用することになります。日本は先進国の中でも最も補聴器の普及率
が低いとされています。要因は様々考えられますがまずは高価であるというこ
と,両耳装用が理想ですがなかなか片耳装用が多く認められるのは,金銭の問
題だけではなく,補聴器をかけることが恥ずかしいといった国民性もあるかも
しれません。補聴器は眼鏡と異なり短時間で合わせることが難しく,環境によ
って聞こえが変化します。どのような場所で聞きたいのかの要望をしっかり補
聴器技能士と相談し,数回調整するフィッテングという作業を受けなければな
りません。数週間ほど試聴し補聴器適合検査を行ったうえでそれぞれの耳に合
った補聴器を購入することになります。購入時の契約にもトラブルが散見され
ます。なるべく補聴器相談医の指導のもとに補聴器技能検査士が行うことをお
勧めいたします。
また,補聴器のみではうまく合わせることができない高度難聴の場合は,手
術で人工内耳を装着することも検討しなければなりません。耳の異常を覚えた
ら,速やかに専門の医療機関の受診をおすすめします。