「知っておきたい身近な耳の病気」
かねた耳鼻科医院 嶋本 記里人
身近な耳の病気ということで,開業医や診療所レベルで日常よくみられるよ
うな疾患を中心にお話しました。
・耳の機能と解剖について:耳には聴覚と平衡覚という大きく2つの機能があ
ります。
耳は外側から外耳,中耳,内耳の3つに分けられます。音は空気の振動であり,
外耳道から鼓膜,耳小骨を伝わって内耳に入り,内耳で電気信号に変換され神
経を伝わり,最終的に脳で音を認識します。
・耳の主な症状:主な症状に難聴,耳鳴,めまい,耳痛,耳漏,かゆみ,耳閉
感などがあります。難聴には外耳,中耳に原因がある伝音難聴,内耳から脳に
原因がある感音難聴,両者を合わせ持つ混合性難聴があります。聴力の標準的
な検査は純音聴力検査で,難聴の程度により軽度,中等度,高度,重度に分類
されます。両側70dB以上で身体障害者の適応となります。
・外耳の病気:耳垢は外耳道の入り口近くで作られ,自然に外へ押し出されま
すが,高齢になると皮膚の老化により奥にたまりやすくなります。一度の診察
では全て取り切れない場合もあります。外耳道真珠腫は軽症のものは比較的よ
く見られ,外耳道の骨が徐々に破壊されて固い耳垢がたまり,手術が必要とな
ることもあります。外耳炎,外耳道湿疹はほとんどが耳のいじり過ぎによるも
ので,患者数も多い疾患です。耳処置や内服,点耳薬で治療します。外耳道真
菌症はカビが原因で,耳漏,かゆみなどが長引く場合があります。外耳道異物
は子供ではビーズなど,大人では綿棒の先端や虫などがあります。先天性耳瘻
孔は胎生期の異常で,感染を繰り返す場合は手術が必要です。
・中耳の病気:急性中耳炎は経耳管感染が多く,耳管が水平に近い子供に多い
病気です。抗菌薬の発達により昔よりは重症化が減りました。滲出性中耳炎は
主に子供にみられますが,高齢者にもみられます。中等度の難聴をきたすこと
もあり,鼓膜チューブ留置により聞こえの改善が見られます。慢性中耳炎,真
珠腫性中耳炎は鼓膜に穿孔や陥凹を生じ,耳漏や難聴をきたします。真珠腫は
進行すると周囲の骨を破壊し,髄膜炎や顔面神経麻痺などをきたし命にかかわ
ることもあります。薬ではよくならず,治療の基本は手術となります。
・内耳の病気:老人性難聴は程度の軽いものを含めると75歳以上では7割以上
といわれ,聞こえの神経の老化によります。耳鳴も伴いやすく,残念ながら治
療で聴力改善は望めず,治療は補聴器となります。補聴器を希望する場合はま
ず耳鼻科を受診し,診察と聴力検査を受けてから補聴器屋さんへ行くことをお
勧めします。突発性難聴は原因不明で,片側の難聴,耳鳴,ときにめまいで発
症します。遅くとも発症後数日以内の治療開始が必要で,主にステロイドで治
療します。低音障害型急性感音難聴は片側の低音域のみの難聴をきたし,耳閉
感がおこります。中年ぐらいの特に女性に多い病気です。メニエール病は難聴
とめまいの発作を何度も繰り返します。疲れやストレスが発作の誘因となりま
す。利尿剤やめまい止めの薬で治療します。音響外傷は急性と慢性があり,慢
性では耳栓などの予防が重要です。良性発作性頭位めまい症は耳鼻科のめまい
で最も頻度が高く,耳石の異常によります。末梢性顔面神経麻痺にはベル麻痺
とハント症候群があり,抗ウイルス薬やステロイドで治療します。
耳の病気には突発性難聴のように治療が遅れると2度と治らない病気もあり
ます。特に急に聞こえが悪いなどの耳の症状があれば,なるべく早めの耳鼻科
受診をお願いします。