「耳の聞こえがわるくなったら」


高木クリニック 高木 明子


 3月3日は耳の日です。まずビデオを見てもらいます。テーマは「難聴にな
ったらどうなるのか」。これは,今まで普通に耳が聞こえていて,ある時期に
急に聞こえなくなった人のその後の日常生活での苦労を,周りの人に理解して
もらうために作られたものです。
 このビデオドラマの主人公Aさんは「突発性難聴」という原因不明の病気に
かかり,耳鼻咽喉科で治療を受けた後,補聴器をつけました。そんな時,かか
りつけの内科の医師から紹介され,胃の検査のために大きな病院で受診します。
ここから物語が始まります。
 ○○病院で。受付嬢は下を向いたまま「これを持って内科の2番窓口へ」A
さんには聞こえない。Aさんが補聴器をつけていることに気付いた受付嬢が大
声でAさんに説明。おかげでAさんは周りの人にじろじろ見られてはずかしい
思いをします。
 内科の受付に案内され,待っているAさん。看護婦さんが「Aさん,Aさー
ん,いらっしゃいませんかー」と何度も呼びますがAさんには聞こえないため
返事ができません。結局いないと思われて最後に一人待合室に残ります。医師
が紹介状を開いて初めて難聴の患者さんだと分かったのですが,午後の仕事を
控えた医師はいらいらしています。早く診察を済まそうと大声で質問します(補
聴器をつけている人に大声で話しかけると音が響いてかえって聴き取りにくく
なるのです)。よく聞こえないAさんはおろおろします。「補聴器ちゃんと合
ってないんじゃないの?もっといいの買いなさいよ」。医師はついにどなって
しまいます。
 Aさんは看護婦といっしょにレントゲン検査に行きます。このとき看護婦が
Aさんには難聴があると,きちんと申し送らなかったので,検査技師はいつも
のようにマイクを通して指示します。Aさんには聞こえません。空腹の技師は
ここでも「補聴器合ってないんじゃないの,困るなあ」と,どなります。この
ようにAさんにとってはつらい体験ばかりでした。
 ドラマの最後では,補聴器が万能ではないと耳鼻科の医師に説明されてAさ
んへの対応を反省した病院スタッフが,指示や説明に文字盤を使うなど障害の
ある人に配慮した方法を取り入れます。-以上がビデオの内容です。
 さて難聴とはどういう状態か。「あ」という文字を使って表してみます。普
通に聞こえる人は「あ」,この大きさに聞こえる。難聴になると小さい「ぁ」
になる。だから大声で話しかければ「ぁ」が「あ」に聞こえるだろう。難聴は
すべてこのようなものと皆さん思うでしょうが,実は違います。難聴の大部分
は,「あ」がただ小さくなるのではなく,文字の所々が欠けたり変形したりす
るのです。大声で話しかけられると,変形した音が歪んだまま大きくなって聞
こえ,うるさく響いてうまく聞き取れません。補聴器がきちんと合っていない
場合もこれと同じようなことが起こります。こうして補聴器をつけても「ガー
ガー」うるさいだけなので,嫌になってつけない人が大勢います。難聴の重症
度により,また各周波数ごとの難聴の程度により,聞こえの形はそれぞれ違い
ます。自分の聞こえに合った補聴器を探し,何度も調節して,出来るだけ「あ」
に近い音にあわせます。
 しかしこれだけではまだ不十分で,補聴器を通して聞こえるこの歪んだ音が
「あ」だと自分の脳に覚えさせるのに訓練が必要です。基本的な練習法を紹介
します。補聴器をつけての練習(1→5)1.声を出して本を読む。
 これは自分の声に慣れるためです。2.いつも見ているテレビなどの音を聞
いてみる。この時は,ニュースなどアナウンサーがはっきりとした言葉で話す
番組を選ぶのがコツ。3.2人で会話する。相手の口もとをよく見て,唇の動
きと聞こえてくる音とで会話を理解する。4.何人かのグループで話す。多人
数での会話のリズムに慣れる。5.外出して,雑音の中で補聴器を試す。―聞
こえが悪くなったら,自分にぴったり合った補聴器をみつけ,このような練習
方法で音を取り戻し,生活をより豊かなものにしてください。