「生活習慣と肝疾患について」
うしお内科クリニック 牛尾 晶
1.アルコールと肝疾患
肝臓への脂肪蓄積はアルコールに対する初期反応です。常習飲酒家の90%に脂肪肝を
認める。過剰の飲酒とは,純エタノールに換算して60g/日以上の常習飲酒をいう。た
だし女性や遺伝的にお酒に弱い人では,40g/日程度の飲酒でもアルコール性肝障害を
起こしうると言われている。アルコール性肝炎患者が,重症化することなく長期に大量
飲酒を継続すると,線維化が進行し,肝硬変へ至る。アルコール性肝硬変患者の予後は,
断酒に成功すれば改善する。
多くの研究結果から,平均2合/日以上の多量飲酒は死亡のリスクが高くなるという
結果が出ており,休肝日をもうけつつ,平均で1合/日程度にすることが勧奨される。
飲酒継続者では,5年後の生存率は35%だが,断酒成功者では88%に向上する。
アルコールが関連した死亡者数は35,000人/年と報告。アルコール性肝障害の治療の
基本は断酒に尽きるが,飲酒継続の背景には単純な趣味・嗜好だけでなく,精神・社会
的背景の要素が強く関係している頻度が高く,患者の通院・治療継続率が低い要素にも
なっている。アルコールには身体的,精神的依存性があり,アルコール依存症となれば
精神神経疾患の範疇に分類される。身体症状に関しては内科での管理治療を要し,精神
的依存症の診断,治療においては,精神神経科の管理が必要であり,両診療科の医師の
連携が必要となり,この点がアルコール関連疾患の治療成績の向上の障壁となっている。
2.肥満と肝疾患
生活習慣病は食事量の増加,食事内容や食事の時間の不規則,運動不足による内臓脂
肪の蓄積が発端で発症する。特にメタボリック症候群の診断基準にある高血圧・脂質代
謝異常・高血糖を皮切りに最終的には失明・人工透析・四肢切断・脳卒中・心筋梗塞・
認知症に至る生活の質を落とす状態にまでドミノ倒しのように症状が出現する。脂肪肝
もこのメタボリックドミノの上流に位置し,検診で指摘があった時点で注意が必要とな
る。40歳以上では男性は2人に1人・女性は5人に1人が診断基準に該当する。問題は
無症状の症例が多いため,自分が該当していても病院に受診行動を起こすことが乏しい
ことにある。
人間ドックにおける異常値の指摘頻度の比較で,最近20年で生活習慣病の指摘頻度は
いずれも上昇傾向。中でも肝障害は受検者の35%に指摘されるほど,世の中で肥満傾向
が強くなっている。近年の肝細胞癌症例の発症原因に関しては,ウィルス性肝炎の治療
成績の向上に伴う減少に反して,飲酒,肥満に伴う脂肪肝からの発症頻度が急増加の傾
向にあり,肥満治療の重要性の啓蒙や,肥満者へのがん検診の重要性も慎重に考える必
要性がある。
3.日常生活での心がけ
食事・運動療法による体重減少は脂肪肝の病態を改善させ,具体的な減量目標も明ら
かになってきている。
5%減量…採血評価による肝機能を改善。
7%減量…組織上での脂肪肝を改善。
10%減量…組織上での線維化を改善。
ところが減量目標の達成率は,5%減量が30%,7%減量が18%,10%減量が10%程
度にとどまる。生活習慣への介入は目標達成率の低さ・達成後の維持に課題がある。
減量を目標とした食事療法は糖尿病指導とほぼ同様。・低カロリー食:治療前の摂取
エネルギーの30%減のカロリー制限と低炭水化物食+低脂肪食の実践?・高果糖含有食品
の適正摂取。運動療法では1回30〜60分,週3〜4回の有酸素運動を4〜12週間継続する
ことで,肝脂肪化を改善すると報告。また,レジスタンス運動(筋力に負荷をかけた動
作を繰り返し行う運動)はエネルギー消費量が有酸素運動より少なくても,肝脂肪化を改
善させる。
外来での画一的な指導ではなく,年齢,体格,疾患重症度,生活スタイルに合わせ,よ
り具体的な食事・運動療法を受診の都度繰り返し,指導することで治療目標達成率を向上
させる努力を,患者様とともに医師側も実践することが,飲酒・肥満による死亡率がとも
に全国最低の青森県での医療には必要なことと認識する。