「知っておきたい黄斑の病気」


はるみ眼科・循環器内科クリニック 向井田 泰子



 COVID-19感染防止の観点からしばらく中止されていた市民健康づくり講座が再開
される運びとなり、その初回の講座を担当させていただいた。
 八戸市保健所健康増進課の方のご尽力により、以下の感染防止対策が講じられた。
 まず事前申し込みにより、入場人数制限が行われると同時に入場者の連絡先が把
握され、万が一クラスターが発生した際の追跡が可能となった。
 また流行地への移動の有無や健康状態がチェックされ、マスクの着用が義務づけ
られた。さらに十分なソーシャルディスタンスをとった座席の配置が施された中で
講演させていただいた。

 黄斑は中心視力を担う弁別能に優れた場所である。ここに何らかの問題が生じる
と微細な物の見分けがつきにくくなり、歪みや中心暗点が自覚され、視力低下に直
結する。黄斑疾患は、緑内障のような周辺視野が先に障害される疾患に比較して自
覚症状が出やすいとされている。しかしながら片眼の視力が良いと無自覚のまま長
期経過する例もあるので注意が必要である。セルフチェックとして、片眼ずつ交代
遮蔽してアムスラーチャート(格子を用いたチェックシート)を使用して症状の有
無を確認すると早期発見につながりやすい。
 また黄斑は光障害を受けやすく酸化ストレスにさらされやすいため、ルテインや
ゼアキサンチンといった抗酸化物質を含む緑黄色野菜をふんだんに摂取することや
紫外線や青色光を避けることをお勧めした。
 黄斑疾患は,糖尿病黄斑症や網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫など全身疾患に
関連するものもあれば、加齢黄斑変性、中心性網膜炎、黄斑円孔、黄斑前膜など黄
斑原発のものもある。いずれも似たような自覚症状を呈するが、診断としては眼底
検査とOCTがあれば、ほとんどの場合、判別が可能である。
 治療としては、平成21年に抗VEGF薬の硝子体注射が日本で承認された。当初は加
齢黄斑変性への使用が認められたのみだったが、これ以降、黄斑変性の方の視力予
後が格段に改善した。しかしながら加齢黄斑変性は再発の比率が高く、硝子体注射
の継続が必要であることが多い。
 さらにその後、糖尿病黄斑症や網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫、近視性黄斑
症にも抗VEGF薬の適応が拡大され、黄斑疾患全体の視力予後も大幅に改善が得られ
るようになった。
 ただし黄斑疾患の全てが抗VEGF薬で治療可能なわけではない。例えば中心性網膜
炎は自然治癒傾向が強いため当面は保存的に経過観察されるが、改善が得られなけ
れば滲出液の漏出点へのレーザー治療や光線力学療法が必要となる。また黄斑前膜
や黄斑円孔には硝子体手術が必要である。さらに全身疾患に起因するものは原疾患
のコントロールを行うことを忘れてはならない。例えば網膜静脈分枝閉塞症に伴う
黄斑浮腫は、血圧のコントロールがつくだけで軽快する例もある。
 以上を画像を提示しながら説明させていただいた。

 マイクの使い回しによる感染を防止するため質疑応答は行われないとのことだっ
たため、より分かりやすい説明を心掛けた。
 質疑応答のない講演は寂しいものであり、一刻も早いコロナの収束を願うばかり
であった。