「知って得する大腸がん予防の話」
はちのへ99クリニック 内海 謙
日本人の死因のトップは昭和50年代半ばに悪性新生物が占めるようになり,
現在28%の日本人は悪性新生物で亡くなっています。その中でも女性では大腸
がんがトップで,男性では肺・胃がんに次ぐ頻度です。
加齢・遺伝・生活習慣などが細胞の遺伝情報を狂わせ大腸腺腫ができ,増大す
ると大腸がんが発生すると言われていますが腺腫を経ないこともあります。大
腸がんはS状結腸・直腸に多く,合わせると全体の6〜7割を占めますが,近
年は右側結腸がんが増加傾向です。血便・下血・腹痛・便の狭小化などの症状
がありますが,発症したときには既に進行がんの可能性が高く,検診で早期発
見することが望まれます。検診では便潜血反応,精検では大腸内視鏡検査が一
般的です。内視鏡では大腸の前処置が大切で,前夜の下剤と当日の大量の下剤
内服を要します。
ポリープの治療は,近年では比較的大きなポリープもESD(内視鏡的粘膜下層剥
離術)で切除可能になってきました。開腹手術では,がんの進行度に応じて大
腸へ向かう血管・周囲のリンパ節を切除し,より再発しにくいよう治療します。
最近では腹腔鏡下手術が広まりつつあり,術後の食事開始や退院の時期が早く
なってきています。ただし病変部位・進行度・癒着の状態によっては,従来の
開腹手術になることもあります。
大腸がんに限らず手術後は癒着により腸閉塞を起こすこともあり,術後数か月
は食物繊維の多い物はなるべく避ける必要があります。そのほかに直腸がんで
は術後の排尿障害,男性では勃起・射精障害を起こす可能性があります。
手術標本より進行がんの判断がされますと抗がん剤治療が考慮されます。より
早期の段階で診断され,内視鏡的または外科的に切除するのが望ましいですが,
不幸にして肝・肺転移,もしくは再発した場合には,内服または点滴による全
身的化学療法,場合によっては肝動注療法,ラジオ波焼灼術などを行うことも
あります。患者さんの状態が良ければ,肝転移・肺転移もなるべく切除した方
が治癒率が高くなり,他のがんによる転移よりも,大腸がんの肝転移・肺転移
に対しては,より積極的に手術を考慮します。近年の大腸がんに対する抗がん
剤治療はめざましく,奏功率が高くなっています。海外に比べて使用可能な薬
が少ない,いわゆるドラッグラグも大腸がんに関しては解消されています。
種々の薬を組み合わせて内服,点滴にて術後補助化学療法や,切除不能病変に
対する治療を行います。抗がん剤により切除可能になる場合もあり,まずは積
極治療を勧めます。
特に東北地方は大腸がん死亡率が高いと言われています。喫煙,飲酒や運動不
足などの原因が示唆されており,大腸がん予防の食生活・運動の必要性などを
話し,国立がんセンター監修のがんを防ぐための12箇条を示しました。検診,
その後の精検受診,および血便を痔疾と決め込まないよう注意を促し講演を終
了しました。
はっちの会場で満席の来場者があり,「検診での大腸がん検査の具体的方法」
「大腸がんと他のがんでの治りやすさの違い」などの質問が寄せられました。