「皮膚から分かる健康と病気」


たんぽぽ皮フ科クリニック 佐藤 俊



 本演題を見た時にどんな内容を思い浮かべるでしょうか。大抵の人は,
何かしらの皮膚以外の病気が隠れていることを,皮膚病変から類推できるとい
うことを期待するのではないでしょうか。つまりからだの異常は皮膚にどう現
れるのかということを知りたいのではないでしょうか。「内臓」を包むのが 
「皮膚」,「皮膚」に包まれているものが「内臓」。当然そこには密接な関わ
りがあります。肝臓が悪い時,腎臓が悪い時,糖尿病の時,皮膚には何らかの
兆候が現れます。その「兆候」を「デルマドローム」と呼びます。
「デルマドローム」を知っておくことは,内臓の病気のいち早い察知につなが
ります。
 肝臓疾患が疑われる皮膚症状:ビリルビンという黄色い色素が血液中に増加
し,全身の皮膚や粘膜に過剰に沈着して黄色く染まった状態,いわゆる黄疸が
あります。ビリルビンは肝臓で処理されて胆汁の中に排泄されます。そのため
肝臓が機能しなかったり,胆汁の流れが悪かったりすると黄疸が出現します。
他にくも状血管腫,手掌紅斑があります。慢性肝疾患患者ではエストロゲンの
代謝が低下するために,その血管拡張作用が増強されて皮膚の血管拡張を生じ
るとされています。
 糖尿病が疑われる皮膚症状:デュピュイトラン拘縮は手掌に見られ,病因は
腱膜を貫通する細小動脈の血栓形成に基づく掌蹠腱膜の線維腫様増殖であり,
糖尿病性細小血管症の関与が推察されています。リポイド類壊死症は主に下腿
に見られます。不整形の境界明瞭な浸潤性紅褐色局面で,中心部はやや陥凹し,
光沢のある黄色調の萎縮を呈し,毛細血管拡張を伴うことがあります。汎発性
環状肉芽腫は躯幹に見られる発疹です。淡紅色または紅褐色調の隆起性環状皮
疹で,微小循環障害,活性化T細胞や単球の細胞浸潤により生じるとされてい
ます。
 膠原病が疑われる皮膚症状:皮膚筋炎は主に皮膚と筋肉に炎症が起きる病気
です。成人の皮膚筋炎では30%位の方に胃がんや肺がんなどの内臓悪性腫瘍を
合併します。しゃがみ立ちが困難,風呂の出入りがつらい,階段が昇りにくい,
洗濯物が干しにくい,髪がとかせない,頭を枕から持ち上げられないなどの症
状がみられます。両上眼瞼にヘリオトロープ疹と言われる浮腫性の紫紅色斑が
認められることがあります。手指の関節背面にゴットロン丘疹と言われる角化
性紅斑が認められることがあります。爪上皮の延長と点状出血を伴う爪囲紅斑
を伴うことがあります。全身性エリテマトーデス(SLE)では,両頬の蝶形紅斑
や手指の凍瘡(しもやけ)様紅斑が認められることがあります。
 悪性腫瘍が疑われる皮膚症状:Leser-Trelat(レーザー・トレラー)徴候は,
脂漏性角化症がおよそ半年の間に数百から数千と急速に増加するものです。急
に体中に「いぼ」が増えてきたと感じたら『要注意!』です。躯幹に花環状,
木目様の紅斑が急速に移動し,辺縁部に鱗屑を生じることが特徴とされている
匍行性迂回状紅斑があります。自験例では患者さんに大腸癌が発見されました。
 最後に爪についてです。心肺機能の低下によって見られる,指先が太く丸く
なるばち状指と言う皮膚症状があります。他に甲状腺機能低下症患者の爪甲異
栄養,本態性赤血球増加症患者の爪甲層状剥離症など,爪の変化は疾病のデル
マドロームの場合があります。