「知って防ごう!生活習慣病」
はちのへファミリークリニック 小倉 和也
昨年に引き続き,メタボリックシンドロームに代表される生活習慣病の予防
法について,食生活改善推進員養成研修会において講演を行った。本年は参加
者も多く,質疑応答も活発であった。
冒頭,例えとして,「エレベーターに乗ってブザーが鳴ったらどうしますか?」
との問いに,全員が「降りる」と回答された。それでは食べ過ぎで病気になっ
たら,「さらに何を食べたらいいですか?」と病院で質問するのはおかしいで
すよね,と質問してみると,生活習慣病の問題がどこにあるか納得できた様子
だった。
生活習慣病はかつて,成人病とよばれていたが,原因を生活習慣に求め,そ
れを改善する意識をはっきりとさせるため,名称が変更された。成人になれば
だれでも避けられずにわずらってしまう病気というイメージから,心がけ次第
ではかなりの部分予防が可能な病気へと,そのイメージも変わりつつある。
メタボリックシンドロームがもともと食べ過ぎることによって起きた病気で
ある以上,それ以上何かを“食べる”ことによって良くなるはずはない。摂取
するカロリーより多く消費することが重要だが,かなりの運動をしても消費で
きるカロリーは思ったより少ない。運動を試みることは重要だが,それと共に
食事によるカロリー摂取を抑えることも不可欠である。
とはいえ生活習慣の改善は非常に難しく,食生活の改善・運動習慣の確立な
どはすぐにはできない。その必要性を理解し,実現可能な目標を立て,成果を
目に見える形で確認しながら取り組むことが重要である。その際,一人では難
しい部分を専門的にアドバイスするのが医師の役割だ。それぞれの取り組みの
パートナーとしてのかかりつけ医を持ち,一緒に取り組むことが大切である。
個人の行動を変えていく際には,個人の資質・性格・仕事の内容や家族関係
など周囲の状況も考慮した上でアドバイスをする必要がある。同じ検査結果,
同じアドバイスを伝えるにしても,相手によってまったく違った言い回しを選
択することがある。短い診療時間の中でお互いの性格を把握しあうことは困難
を極めるが,それも回数を重ね,ご本人・ご家族のいろいろな問題に一緒に対
処することで,徐々に可能になる。
日本の医療は医療費の高騰,高齢者の増加により,次第に入院から在宅へ,
お金のかかる治療から生活習慣の改善や予防へと重点を移してきている。高度
医療の充実を図る一方で,個人個人の努力で改善できることは改善できるよう,
医師としても効果的な手助けをすることが求められる。
今後,生活習慣病の診療は病院でお薬をもらうという意識から,病院でアド
バイスをもらい,ともに生活習慣を改善していくという新しい形に徐々に変化
していくものと思われる。
アンケートの回答の中には,エレベーターの例えで理解できたとのコメント
も多かったが,同時に実行することの難しさを実感するような内容も質疑の中
では見受けられた。
今後の少子高齢化に対応した医療体制の確立のためには,急性期治療を維持
するためにも,予防と回復期の治療にもこれまで以上に力を入れる必要がある
と考えられる。今後も,市民一般に対する継続的な情報提供を行っていく必要
があると感じた。