「白内障と緑内障の豆知識」


医療法人湘洋会ナンブクリニック 陰山 俊之



 眼球は全長約24mmの小さい臓器ですが,人が得る情報の80%は視覚から得ら
れるとされており,大変重要な役割を果たしています。眼球はカメラと同じ構
造で,レンズに相当する部分を水晶体,フィルムに相当する部分を網膜といい
ます。水晶体の疾患の代表として白内障,網膜の疾患の代表として緑内障を取
り上げ,説明を行いました。

1.白内障の豆知識
 白内障は60歳以上で50%,80歳以上では100%にみられるという,大変身近
な疾患です。水晶体が加齢とともに徐々に混濁し,視力低下(かすむ・ぼやけ
る)を来す疾患です。視力低下以外に,まぶしさ(羞明)を自覚するケースが
あります。
 白内障治療は症状が軽度であれば,点眼薬で進行を抑制しますが,点眼薬や
内服薬では水晶体混濁の改善は期待できないため,根本的な治療は手術療法と
なります。
 白内障手術は混濁した水晶体を破砕・吸引し,眼内レンズに置き換える手術
です(超音波水晶体乳化吸引術)。本邦では年間約100万眼行われ,大変身近
な手術であるといえます。しかし手術顕微鏡を使用する大変緻密な手技で,難
易度の高い手術です。近年は日帰りで行われるケースも多くなりました。
 手術後は,抗生剤などの点眼と内服を行いますが,手術後最も危険な合併症
は細菌感染による術後眼内炎です。非常にまれ(0.1%以下)なものの,失明
に至るケースも多く,すみやかな専門的治療を要します。手術後約3日前後は
洗顔,自己洗髪は避ける必要があります。首から下のシャワーは4日目から可
能です。一般的には,安定期(術後約1か月後)になれば,農業を含めた肉体
労働,スポーツなど全ての生活を元通りに行えます。手術後は,乱視や調節障
害は残るため,眼鏡は必要になるケースが多いです。

2.緑内障の豆知識
 緑内障は,網膜を構成する神経細胞が減少し,視野障害や視力障害を来す疾
患です。本邦では中途失明原因の第1位で,その罹患率は非常に高く,日本全
体では約200〜300万人の緑内障患者がいると想定されています。
 網膜を構成する神経細胞が減少する原因の一つとして,眼圧の上昇がありま
す。眼圧が上昇すると,網膜を圧迫する力が働き,網膜細胞が押しつぶされる
ような形になり,網膜細胞の減少に拍車がかかります。しかし近年の研究では,
眼圧が正常であっても,体質的に視神経乳頭の構造が弱く,網膜細胞の減少を
来す正常眼圧緑内障の存在が明らかになり,全緑内障の70%を占めることも知
られるようになりました。
 緑内障は10〜20年単位で徐々に視野障害を引き起こすことが一般的です。視
野障害は一度進行すると元に戻らないため,早期発見で進行させないことが治
療の基本です。初期は自覚症状がないため発見が困難ですが,健診の一部に眼
底カメラが取り入れられ,早期発見に効果を上げてきております。さらに近年,
OCTと呼ばれる近赤外線を用いた検査機器が普及し,眼底カメラ以上に早期の
緑内障が発見できるようになりました。
 緑内障の治療は,点眼薬と内服薬がありますが,いずれも眼圧の下降が目的
です。薬物を使用しても視野障害が進行する場合は,手術による眼圧下降が必
要となります。手術にはレーザーを用いて行う方法と,実際に房水のバイパス
を行う手術があります。緑内障は早期発見が重要であり,自覚症状が出現した
場合でも安定した眼圧の維持に努めれば,良好な経過が得られることが多いで
す。眼圧,視野検査を主体とした定期的な経過観察が,疾患の管理に重要です。