「ちょっと気になる肝臓病の話」


八戸市立市民病院消化器科 医長 松田 泰徳



 市民健康づくり講座で肝臓病の最近の話題に関して講演させていただきまし
た。主催者からは100名以上の参加者があり好評であったと伺っています。慢
性肝疾患は自覚症状がないまま肝硬変や肝臓がんに進展しますが,この原因と
して大部分を占めるC型肝炎とB型肝炎を中心に講演いたしました。

 C型肝炎ではこれまで難治例と言われていた日本人に最も多いセログループ
1型・高ウィルス量患者に対して,従来のペグインターフェロン・リバビリン
に加えプロテアーゼ阻害剤を併用する治療ができるようになり大きく治療成績
が向上しました。特に平成25年秋より使用できるようになったシメプレビルで
は初回治療で治癒率92%と大きく向上しています。また,昨年秋に国内初のイ
ンターフェロン・フリーの治療であるダクラタスビル・アスナプレビル併用療
法ができるようになり,うつ病や高齢者などのインターフェロン不適格・不耐
容患者,インターフェロン無効患者,インターフェロンでは治療成績不良な代
償性肝硬変患者に治療チャンスが広がりました。いずれにおいても80%以上の
治癒率を達成しています。但し,この薬剤はウィルスの薬剤耐性変異の有無に
より有効性が大きく異なり注意を要します。近年の創薬ペースの早さは目覚ま
しいものがあり,今後もさらに有効性の高い新薬が開発される可能性があるこ
とをお話ししました。

 慢性B型肝炎では1985年に母子感染予防事業が開始以降,若年の感染者は全
国的に低値で推移しています。しかしながら,キャリアーの父親からの感染や
保育施設内での感染も報告されていて注意が必要です。B型肝炎の考え方は私
が医学部を卒業した頃(10数年前)とは大きく異なります。B型肝炎の自然経
過でおこる“セロコンバージョン”は,以前は臨床的治癒と考えられていまし
た。しかし,実際はその約20%が肝がん,肝硬変,活動性肝炎に進行している
ため,過去に“セロコンバージョン”後と診断され終診となっている場合は見
直しが必要です。近年のがんや自己免疫疾患の治療法の進歩により生物学的製
剤や強力な免疫抑制療法,全身化学療法を行うようになりましたが,これにと
もないB型肝炎の再活性化が問題となっていることを話しました。以前は国内
で成人になってからB型肝炎ウィルスに感染しても慢性化することはありませ
んでした。しかし,近年首都圏での急性肝炎は欧米型遺伝子型のウィルス感染
が半分以上を占め,このうち約10%程度が慢性化すると言われて注意が必要で
す。世界では多くの国でB型肝炎のユニバーサル・ワクチンを実施しています
が,日本では未だ導入されておらず,この必要性をお話ししました。活動性B
型肝炎の治療に関しては35歳未満ではインターフェロン,35歳以上では核酸ア
ナログ(エンテカビルなど)で治療しています。昨年は新しい核酸アナログと
してテノホビルが使用できるようになり治療の選択肢が広がりました。

 肝炎患者の日常生活の注意としては,禁酒だけではなく肥満予防も大切であ
ることを話しました。肥満は発がんリスクを高めます。C型肝炎の食事として
鉄制限食を紹介しました。コーヒーが発がんリスクを下げるという疫学研究を
紹介しました。多価不飽和脂肪酸を含む魚中心の食生活が肝機能を安定させる
こと,分枝アミノ酸や亜鉛に発がん抑制効果があること,肝硬変患者では夜食
が推奨されることを紹介しました。肝炎治療を支援する仕組みとして医療費助
成制度,病診連携,無料肝炎検査を紹介しました。

 講演終了後には「肝血管腫」や「原発性胆汁性肝硬変」などに関する質問を
いただきました。様々な肝疾患で悩まれている参加者のためにも,次の機会に
はウィルス肝炎以外の内容も講演に盛り込みたいと思います。