「糖尿病について 〜今からできる血糖改善術〜」
八戸市立市民病院内分泌糖尿病科 葛西 伸彦
2012年の調査によると,日本で糖尿病が強く疑われる人は950万人で予備軍
は1,100万人,合わせて2,050万人が何らかの耐糖能異常を有していることとな
り,その人数は年を追うごとに増加しています。その増加の背景として,もと
もと欧米人に対して低いインスリン分泌能を有する遺伝的因子に加え,高脂肪
食や運動不足などの環境因子が関与していると言われています。
糖尿病はもともと網膜症や腎症,神経障害に代表される細小血管障害を呈す
る疾患と考えられていますが,近年は細小血管障害のみならず,生命予後やQO
Lの低下に大きな影響を及ぼす大血管障害(脳卒中や心筋梗塞など)を起こす
リスクが高いことが注目されています。これらの合併症を防ぐべく,糖尿病と
診断されたときは正しい知識を持ち,できるだけ早期から良好な血糖管理が必
要になります。
血糖は朝空腹時がもっとも低く安定するため正常値が定められ,70〜110mg/
dLが正常値とされています。食後はやや上昇を認めるものの,140mg/dLを超え
ない値で推移します。この血糖を維持できれば,1〜2か月間の血糖の平均と
して表されるHbA1c(ヘモグロビンA1c)は6.0%未満となります。糖尿病の合
併症の予防のためには,HbA1c?7.0%未満が共通した目標になります。
糖尿病の治療は適正カロリー,適正バランスを前提とした食事療法が基本と
なります。飲料などのカロリー表示にも注意が必要です(ノンカロリーやカロ
リーオフ)。加えて近年増加傾向である肥満例では運動療法も基本となります。
日常生活でも階段を用いるなどの工夫を取り入れましょう。これら食事療法,
運動療法でも良好な血糖コントロールが達成できないときに,薬物治療の適応
となります。薬物治療では経口糖尿病薬やインスリンに代表される注射製剤を,
患者さんの病態,生活習慣,血糖コントロール状況に応じて使い分けています。
近年は新薬の開発も盛んに行われ,新しいお薬が続々と登場し,個々の患者さ
んにおいて血糖コントロールの改善に効果を表しています。
糖尿病と上手に付き合い,糖尿病特有の合併症に悩まされることなく,糖尿
病とともに,糖尿病のない健常者と同じ寿命を全うすることが糖尿病治療の本
来の目標になります。そのためには,糖尿病に対する正しい知識を持ち,自己
管理をすることが重要となります。一人で悩むのではなく,仲間や家族と共に
糖尿病に対する関心を持ち,医師をはじめ多くの医療スタッフを上手に利用し
て治療を継続してゆきましょう。