「増えている大腸がん」
はちのへ99クリニック 内海 謙
日本人の死因のトップは昭和50年台半ばに悪性新生物が占めるようになり,
現在およそ3人に1人は悪性新生物で亡くなっています。その中でも,女性で
は大腸がんがトップとなり,男性では肺・胃がんに次ぐ頻度です。
国立がん研究センターからは,大腸がんの死亡率は今後も高まると予測デー
タが出ています。
加齢・遺伝・生活習慣などが細胞の遺伝情報を狂わせ大腸ポリープ,特に腺
腫ができ,増大すると大腸がんが発生するといわれていますが腺腫を経ないこ
ともあります。大腸がんはS状結腸・直腸に多く,合わせると全体の6〜7割
を占めます。血便・下血・腹痛・便の狭小化などの症状がありますが,発症し
たときには既に進行がんの可能性が高く,検診で早期発見することが望まれま
す。種々の検査法があり,検診では便潜血反応,精検では大腸内視鏡検査が一
般的です。内視鏡では大腸の前処置が大切で,前夜の下剤と当日の大量の下剤
内服を要します。
ポリープの段階では通常内視鏡的切除で治療しますが,大きさ・形状・細胞
組織によって遺残,腸管穿孔を来す可能性があり,開腹手術を考慮します。開
腹手術では,がんの進行度に応じて大腸へ向かう血管・その周囲のリンパ節を
切除し,より再発しにくいよう治療します。最近では,体への負担を軽減でき
る腹腔鏡下手術が広まりつつあり,術後の食事開始や退院の時期が早くなって
きています。ただし,病変部位・進行度によっては従来の開腹手術になること
もあります。
腸閉塞で発症した場合,経肛門的イレウス管を留置し,口側腸管を洗浄する
ことで待機手術へ持ち込むことができます。大腸がんに限らず手術後は癒着に
より腸閉塞を起こすこともあり,術後数か月は食物繊維の多い物はなるべく避
ける必要があります。そのほかに直腸がんでは術後の排尿障害,男性では勃起・
射精障害を起こす可能性があります。
手術標本より,進行がんの判断がなされますと抗がん剤治療が考慮されます。
より早期の段階で診断され,内視鏡的または外科的に切除するのが望ましいの
ですが,不幸にして肝・肺転移,もしくは再発した場合には内服または点滴に
よる全身的化学療法,場合によっては肝動注療法,ラジオ波焼灼術などを行う
こともあります。患者さんの状態が良ければ,肝転移・肺転移もなるべく切除
した方が治癒率が高くなり,他のがんによる転移よりも,大腸がんの肝転移・
肺転移に対しては,より積極的に手術を考慮します。近年の大腸がんに対する
抗がん剤治療はめざましく,奏功率が高くなっています。海外に比べて使用可
能な薬が少ない,いわゆるドラッグラグも大腸がんに関しては解消されていま
す。種々の薬を組み合わせて内服,点滴にて術後補助化学療法や,切除不能病
変に対する治療を行います。抗がん剤により,切除可能になる場合もあり,ま
ずは積極治療を勧めます。
特に東北地方は大腸がん死亡率が高いといわれています。喫煙,飲酒や運動
不足などの原因が示唆されており,大腸がん予防の食生活・運動などを話し,
国立がんセンター監修のがんを防ぐための12箇条を示しました。検診,その後
の精検受診,および血便を痔疾と決めつけないよう注意を促し,講演を終了し
ました。
来場者は60〜70歳代の方が多く,個々の症状に関する質問が2,3寄せられ
ました。