「中高年に多い目の病気」


松橋眼科クリニック 松橋 英昭



 私の診療所に来院する患者さんのおよそ2割が緑内障です。薬物治療を要す
る眼疾患としては最も多いといえます(ちなみに白内障はもっと多いのですが,
薬物治療は必須ではありません)。今回の講座は,緑内障について患者さん方
から多く寄せられる質問に答える形でお話ししました。

1.緑内障になると失明するの?
 確かに日本人の成人中途失明の原因として緑内障は29%と最も多く,健康上
の脅威となっている。しかし早期発見と治療継続によって失明を防ぐことは充
分に可能だ。失明するのは緑内障の発見が遅れた方,適切な治療を継続されな
かった方々である。

2.緑内障と診断されたが何も困っていない
 緑内障による視野障害は中心から20度くらい離れた部位から始まり,中心視
野は最後まで残ることが多い。また片眼の視野障害を僚眼が補う可能性があり,
さらに脳の錯覚も関与するため,患者は視野障害を自覚しにくい。視野欠損や
視力低下を訴えて受診した時には,すでに緑内障の末期ということが多い。

3.健診で「乳頭陥凹」と指摘されたが緑内障なのか?
 自覚症状のない緑内障患者の早期発見に大きな役割を果たすのが健診だ。そ
の中でも重要な検査は,視力や眼圧ではなく,眼底検査(眼底写真)である。
診断のためのポイントは,視神経乳頭陥凹の形状,リム(陥凹外縁と乳頭外縁
の間)の菲薄化,乳頭出血,網膜神経線維層欠損の有無などである。
 乳頭陥凹は眼底所見を表す用語であって病名ではない。視神経乳頭陥凹の拡
大は緑内障の特徴のひとつだが,生理的乳頭陥凹もある。また生まれつき乳頭
の大きい人は陥凹径も大きく,緑内障と見誤られやすい。逆に乳頭の小さい人
は陥凹も小さく,緑内障を見逃されやすい。

4.眼圧はいくつまでが正常か?
 正常眼圧の上限は約21mmHgとされているが,これは統計的に正常人の眼圧が
正規分布をとると仮定して,その平均+2標準偏差を上限とした数字にすぎな
い。しかし実際には高眼圧≒緑内障ではないし,正常眼圧≒健常でもない。緑
内障にはいくつかの型があるが,正常眼圧緑内障が約7割と最も多い。一方,
眼圧が21mmHgを超えるが緑内障特有の神経障害がみられない「高眼圧症」もあ
る。

5.緑内障の人が飲んではいけない薬がある?
 抗コリン作用薬は隅角閉塞を誘発する恐れがあるため,未治療の閉塞隅角緑
内障に対しては禁忌である。ただし原発閉塞隅角緑内障の有病率は全緑内障の
およそ1割しかない。大多数を占める原発開放隅角緑内障(広義)に対して抗
コリン作用薬の使用は問題ない。
 もうひとつ緑内障を誘発する恐れのある薬剤は副腎皮質ステロイドである。
感受性に個人差があるが,ステロイドを長期連用する場合は全身投与・局所投
与(外用剤)を問わず,定期的な眼科検査が必要である。

6.緑内障の予防法と治療法は?
 一部の続発性緑内障は原疾患の治療により予防可能である。また閉塞隅角緑
内障の急性発作はレーザー手術などにより予防できる。しかし大多数を占める
原発開放隅角緑内障には予防法はなく,日常の生活習慣の影響もない。

 緑内障治療の基本は眼圧を下げ,視野障害の進行を抑制することである。す
でに障害された視野を回復することはできない。治療の主役は点眼薬であり,
内服や注射は急性発作時に用いられる。薬物療法にもかかわらず適正な眼圧に
コントロールできない場合,視野障害が進行する場合には手術が行われる。緑
内障手術には術後合併症も多いため,その適応は慎重に判断されなければなら
ない。