「知っておきたい目の病気」


馬場町眼科クリニック 橋 奈美子



 日本人の中途失明原因の第1位は緑内障(24.6%),第2位が糖尿病網膜症
(20.0%)であり,次いで網膜色素変性症(3.7%),加齢黄斑変性症(9.8%)
となっている。今回はこれらの疾患に加え高齢者に多い網膜静脈分枝閉塞症・
翼状片・結膜弛緩症について解説させていただいた。

 白内障:白内障とは水晶体が白く濁ってくる疾患。主な症状はかすむ,まぶ
しい,だぶって見える,どんなに調整してもメガネが合わないなどである。原
因で多いのは加齢に伴う老人性白内障で80歳以上のほぼ100%に認められる。
薬物治療として点眼薬・内服薬があるが視力を回復させることはできないため,
視力低下が進むと手術療法が選択される。手術が視力を回復させる唯一の手段
となる。手術はほとんどの場合局所麻酔で,水晶体超音波乳化吸引術という術
式で施行する。

 緑内障:最近の疫学調査で40歳以上の約20人に1人が緑内障という結果が出
ている。緑内障とは視神経が障害を受け視野に異常のくる疾患であるが,初期
の自覚症状がほとんどないため,気付かないまま進行してしまい失明につなが
る事がある。緑内障検査としては,眼圧検査,眼底検査,視野検査などが挙げ
られる。緑内障の治療の第一選択は点眼薬による薬物療法である。まず眼圧を
下げ,今以上の視神経障害を防ぎ,出来るだけ視野障害が進行しないようにす
ることを目標とする。緑内障は早期発見・早期治療が強く望まれる疾患であり,
定期的に検診を受けるようにしてほしい。

 加齢黄斑変性症:加齢により網膜の中心部である黄斑に障害が生じ,見よう
とするところが見えにくくなる疾患。現在中途失明原因の第4位であり50歳以
上の人の約1%にみられる。主な症状は変視症,中心暗点,色覚異常など。マ
ス目を見てもらって歪みを調べるアムスラー検査や眼底の造影検査,光干渉断
層撮影(OCT) 等で診断する。治療には光線力学的療法や血管内皮細胞増殖因
子(VEGF)阻害薬の眼内注射などがある。これらの治療で視力は回復するよう
になったが,完全に元に戻る事はほとんどない。喫煙者に発生率が高く,禁煙
が予防につながると言われている。その他サプリメントや緑黄色野菜の摂取が
勧められている。

 糖尿病網膜症:現在失明原因の第2位を占める。糖尿病患者の網膜症有病率
は約40%と言われる。糖尿病患者の血液は粘性が高く,網膜の毛細血管が閉塞
することにより網膜の酸素や栄養が不足し,眼底出血や硝子体出血等の症状を
示す糖尿病網膜症を発症する。糖尿病の存在・眼底所見・蛍光眼底造影所見に
て診断がつく。治療は網膜光凝固術,硝子体手術,薬物療法などがあるが,悪
化すると失明する。

 網膜静脈分枝閉塞症:血管の交差部で静脈が動脈に圧迫されて血流が悪くな
る事により,血栓が形成され血管から血液が漏出することによって起こる。血
管の詰まる部位によって症状は違い,全く自覚症状がないこともある。出血や
浮腫が網膜の中心に及んだ場合視力が低下する。

 翼状片:結膜が増殖し目頭の方から角膜に三角形に入り込んでくる病気。症
状としては充血や異物感が多い。翼状片自体は悪性の組織ではないが,大きく
なると乱視の原因になるため根本治療には手術が必要である。

 結膜弛緩症:結膜が加齢によりゆるむ事によって起こる。涙目・結膜下出血・
ごろごろ感などの目の不快感の原因となっている事がわかってきたため,手術
療法も行われる様になってきた。

 眼球は直径25・程度の小さな組織であるが,目の疾患はとても多い。 今回
ご紹介できたものはその中のごく一部であるが,皆様の目の健康維持の知識と
してお役に立てば幸いである。