「耳鼻科のアレルギーとうまくつきあうために」
小西耳鼻咽喉科医院 小西 和朗
耳鼻咽喉科領域におけるアレルギー関連疾患は多岐にわたっており,今回は
これからシーズンとなる花粉症を中心にお話を進めてみたいと思います。花粉
症は季節性アレルギー性鼻炎ともいわれ,10歳代から急に増加し,20−3
0歳代にピークがあり,特に女性に多い傾向があります。花粉症といえば,ス
ギ花粉症があまりにも有名になり,スギ花粉情報,スギ花粉前線などマスコミ
の話題になるため,花粉症といえばスギしかないように思われますが,そうで
はありません。春は樹木の花粉(tree season),初夏から夏は牧草の花粉
(grass season),夏から初秋は雑草の花粉(weed season)があり,花とし
てはいずれも風媒花であることが特徴です。
この花粉が人に接触,吸入されることによって症状を引き起こします。スギ
花粉症は,八戸では1月1日からの最高気温(氷点下は0とします)を加算し
て,210度を超える頃より飛散が始まると言われています。症状としては眼
と鼻の症状を主としますが,しばしば咽頭,下気道,皮膚などの他の部位の多
彩な症状を合併することがあります。具体的には,鼻症状として鼻閉,鼻漏,
くしゃみは必須で,鼻のかゆみ,嗅覚障害,鼻出血,鼻孔部湿疹,眼症状とし
ては眼のかゆみ,充血,流涙などです。その他の症状として,鼻とのどの間の
かゆみ,のどの不快感,咳払い,味覚障害,耳のかゆみ,胃腸症状として,下
痢,便秘,またつかれやすい,頭痛,頭重感,発熱など症状が多彩で,ことに
スギ花粉症では症状が強く出現するのが特徴です。さて,この鼻症状は一種の
生体防御反射で,くしゃみによって抗原物質を外界に排除し,水様性鼻漏によ
って抗原を流して排除する合目的な反応といえます。また鼻閉も,抗原が生体
深部へ進入するのを防ぐための生体反応と解釈されますが,アレルギーの場合,
これが発作性にくり返して現れ,かつ正当な防御反射の範囲を越え烈しく出現
し,逆に個体を苦しめるところに特徴があります。発症の機序についての詳細
は省略しますが,最近アレルギー性鼻炎が増加したのはなぜでしょうか。遺伝
的要因が最近になって急に変化したとは考えにくく,やはりその要因の多くは
環境因子に起因するものと思われます。まず考えられるのは,植林などにより
スギ花粉数が増加したことが理由としてあげられます。また,日本人の食生活
の変化により高蛋白,高栄養などによって免疫能に変化がおこったとか,大気
汚染物質が抗体産生を増強するアジュバントとして働いていると考えられてい
ます。最近ディーゼルエンジン車排気の微粒子(DEP)が新聞などで取り上げら
れているのは周知の事実です。その他蓄膿症の減少や,寄生虫感染がなくなっ
たため等,いろいろな事が考えられています。診断は,問診や鼻鏡検査,鼻汁
細胞診,皮膚反応検査,鼻粘膜誘発反応,血清 IgE 抗体検査など統合して診
断します。
治療としては,抗原の回避が大切ですが,日常生活では予防できる事には限
度があります。減感作療法は,治癒を期待できる治療ですが,治療期間が長く,
全例に有効というわけでなく,花粉症の期間が限られているということから,
あまり利用されない理由の一つとなっています。対症療法としては,種々の抗
アレルギー剤,抗ヒスタミン剤,ステロイド剤(局所噴霧が主体),抗コリン剤,
非特異的減感作療法,漢方療法などがあります。最近は,花粉飛散前の抗アレ
ルギー剤の予防投与でより良い効果が期待できます。それでも症状の改善がな
い症例には,手術治療がなされますが,最近はレーザー手術をする症例が多く
なっています。いずれにしろ,個々の人々のライフスタイルにあった適切な治
療法を選択して,快適に花粉シーズンを過ごしていただきたいと思います。