「こどものためのストレスケア」


すわクリニック小児科 後藤 麻美



 心について,科学的にまだ充分には解明されてはいません。心は少なくとも
身体の中にある,おそらく脳の働きにあると考えられています。

 私たちは,自分の身体は自分の意志で動かせると思いがちですが,実際には,
自分の意志で動かせるのは,身体のごく一部に過ぎません。呼吸をすること,
心臓を動かすこと,食べ物を消化・吸収する,尿や便を排泄することなど,そ
れらは自律神経によってコントロールされています。自律神経には,交感神経
という主に活動するための神経系と,副交感神経と言って主に休息するための
神経系があり,そのバランスが大切です。

 自律神経がうまく働くために,こどもの場合,何よりも,身体のケアが一番
大事です。

 良く食べる(栄養),良く眠る(睡眠),良く休む(休息),そして良く遊
ぶ(運動)ことです。

 栄養に関しては,各栄養素のバランスが大切です。

 脳内の神経伝達物質には,ドーパミン,セロトニン,アセチルコリン,ノル
アドレナリンなどがあり,それらは,興奮や不安,意欲や快感など,私たちの
感情に関与しています。これらの神経伝達物質はアミノ酸から形成され,その
吸収にはビタミンなどが必要です。このためにも,バランス良く食べることが
大切です。

 また,良い睡眠のためには,@寝る時間を決めて A心も身体もリラックス
した状態で(メディアを避けて) B夜は暗く C眠る前のお風呂はぬるめに
D起きる時間を決めて E朝は光を浴びて軽い運動も F朝ごはんをしっかり
食べるなどが効果的でしょう。すっきりと気持ちの良い目覚めは,日中の活動
にも良い効果があります。

 最近,当院の外来では発達障害の相談とともに,不登校,心身症のお子さん
たちも増えています。実は心身症は,子どもに多い疾患です。

 子どもの心身症の場合,心の問題が原因であっても,まずは子どもの訴えを
認め,その発症の原因はその子どもの弱さではなく,感受性が強く環境や出来
事に敏感な特性を持っているということを理解して環境を整えていくことが大
切です。

 小児心身医学会では,起立性調節障害,不登校,神経性無食欲症,くりかえ
す痛みについてのガイドラインを作成しています。

 起立性調節障害は,中学生の約10%にみられるありふれた身体的疾患です。
小児科を受診する中学生の約20%に症状を認め,大部分は軽症ですがさぼりや
なまけと誤解されやすく,中度以上では不登校になる場合が多い疾患で,その
理解が必要です。

 子どもたちの学ぶ意欲が欠けていると思われた時,叱る前に「自分は大切に
されている,自分はありのままの自分でいいのだ」と思えるよう育っているか
子どもをみていくことが大切です。「自己肯定感の土台の上にしつけが成立し,
そして初めて学ぶ意欲が育つ」と明橋大二先生も述べています。

 こどもは甘えと自立を繰り返しながら独り立ちしていきます。

 昨年の震災後,メールでの医療相談に関わりましたが,その際,精神的な悩
みを相談された方々の多くは,震災以前よりの精神的問題を抱えた方でした。

 大きなストレスを受けたこどもに対し,大人たちが出来ることは,スキンシ
ップを持つこと,大丈夫必ず守ると伝えること,普段の生活を保つこと,子ど
もの話を聴くこと,無理をせずありのままの状態を見守ること,楽しむことを
させること,お手伝いなど一緒の時間を過ごすこと,罪悪感や無力感も正常の
反応と知らせることなどでしょう。また,その周囲の大人へのケアも大切です。

 子どもたちに伝える言葉は,「がんばれ」よりも「がんばっているね」,「し
なさい」より「できたね」「ありがとう」であって欲しいと願っています。

 子どもは必ず育ちます。