「血糖値が気になるあなたに −糖尿病および予備軍2,210万人−」


八戸市立市民病院 内分泌糖尿病科 葛西 伸彦


 2007年の調査によると,日本で糖尿病が強く疑われる人は890万人で予備軍
は1,320万人,合わせて2,210万人が何らかの耐糖能異常を有していることとな
り,その人数は年を追うごとに増加している。その増加の背景として,もとも
と欧米人に対して低いインスリン分泌能(膵β細胞機能)を有する遺伝的因子
に加え,高脂肪食や運動不足などの環境因子が関与していると考えられる。ま
た,平均寿命の延長など若年者のみならず高齢者の糖尿病の増加も関与してい
る。

 糖尿病はもともと網膜症や腎症,神経障害に代表される細小血管障害を呈す
る疾患と考えられているが,近年は細小血管障害のみならず,生命予後やQOL
の低下に大きな影響を及ぼす大血管障害(脳卒中や心筋梗塞など)を起こすリ
スクが高いことが注目されている。

 これらの合併症を防ぐべく,糖尿病と診断されたときは,正しい知識を持ち,
できるだけ早期から良好な血糖管理が必要とされる。

 血糖は朝空腹時がもっとも低く安定するため正常値が定められ,70〜110mg/
dLが正常値とされている。食後はやや上昇を認めるものの,140mg/dLを超えな
い値で推移する。この血糖を維持できれば,1〜2か月間の血糖の平均として
表されるHbA1c(ヘモグロビンA1c)は4.7〜6.2%(NGSP値)となる。糖尿病性
合併症の予防のためには,HbA1c?6.9%未満が第一の目標として求められてい
る。

 高血糖状態では,口渇,多飲,多尿,体重減少,倦怠感などの自覚症状が見
られるが,これらの症状が出にくい場合もあり,糖尿病は放置や治療中断につ
ながりやすい。自覚症状に乏しくても定期的な通院,検査が合併症の予防,悪
化防止のため重要となる。

 糖尿病の治療は適正カロリー,適正バランスを前提とした食事療法が基本と
なる。加えて近年増加傾向であるメタボ型の糖尿病に代表される肥満例では運
動療法も基本となる。これら食事療法,運動療法でも良好な血糖コントロール
が達成できないときに,薬物治療の適応となる。薬物治療では経口糖尿病薬や
インスリン,GLP-1受容体作動薬などを患者の病態,生活習慣,血糖コントロー
ル状況に応じて選択し用いる。特にここ数年はDPP-4阻害薬の使用症例が増加
し注目を浴びている。DPP-4阻害薬は消化管ホルモンであるGLP-1を高める働き
を有し,血糖依存性に膵臓からのインスリン分泌を増幅するため,単独では低
血糖の副作用が少ないという特徴を有している。ゆえに,高齢者や初期の2型
糖尿病症例において広く用いられるようになっている。しかしながら,経口糖
尿病薬で十分な血糖コントロールが得られない症例は多く,特に内因性インス
リン分泌が低下した症例では早期にインスリン治療を検討すべきと考える。イ
ンスリン治療は決して糖尿病が重症であるから行うものではなく,最後の手段
ではないことを強調したい。

 糖尿病と上手に付き合い,糖尿病特有の合併症に悩まされることなく,糖尿
病とともに,糖尿病のない健常者と同じ寿命を全うすることが糖尿病治療の本
来の目標である。そのためには,糖尿病に対する正しい知識を持ち,自己管理
をすることが重要と考える。一人で悩むのではなく,家族を巻き込んで糖尿病
に対する関心を持ってもらうことが重要と考える。

NGSP:national glycohemoglobin
standardization program
GLP-1:glucagon-like peptide-1
DPP-4:dipeptidy1 peptidase-4