「こんな症状要注意 〜耳の病気〜」


橋本耳鼻科クリニック 橋本 敏光


耳の構造と聞こえの仕組み

 耳は解剖学的に外耳,中耳,内耳に大きく分類される。外耳は耳介と外耳道
から成り,空気の振動(音刺激)を鼓膜に伝える働きを担っている。中耳は鼓
膜,耳小骨でのテコ作用で音刺激を増幅させ,内耳に伝える。内耳では蝸牛の
有毛細胞の働きで音刺激が電気刺激へと変換され,聴覚神経を経由し脳に電気
刺激が到達し,「聞こえた」と認識される。この経路のいずれかで障害が発生
すると聴覚の異常をきたすことになる。

難聴の影響

 高齢者の場合
 高齢者の耳の聞こえが悪くなる(いわゆる老人性難聴)と相手の声が聞き取
りにくいことから,聞き返しが多くなる,相手にいやがられるなどを経験して
いくうちに多くの人は会話がおっくうに感じるようになる。このため他人との
会話が減少し,これが脳への刺激の減少につながり,老化や認知症などが進行
しやすい状態になってしまう。「年なのでしょうがない」と受診もせずにあき
らめず,まずは検査。加齢による変化のため治療不可な場合でも可能なら補聴
器を検討するなどしてほしい。

 乳幼児の場合
 乳幼児では先天性難聴が問題になる。子供の言葉の発達は時期が限られてい
る。乳幼児期に難聴を発見できないと,脳の可塑性の問題からその後に難聴に
対する対応ができたとしても,十分な言語獲得は期待できない。このため早期
発見が非常に大事である。家庭で音の反応が悪いような気がするなど,気にな
ることがあれば必ず耳鼻科医に相談してほしい。現在は先天性難聴があったと
しても早期発見できれば補聴器や人工内耳手術という治療法で十分な会話がで
きるようになる可能性が高い。

聞こえの悪くなるその他の病気

 外耳,中耳が原因で難聴をきたす病気として耳垢栓塞,滲出性中耳炎などが
ある。これらは原因を治療すれば完治し聴力は回復する。いずれも比較的多い
病気である。
 内耳が原因の難聴はいずれの場合も治癒が難しいことが多いが,特に注意す
る疾患として突発性難聴という疾患がある。急に聴力が悪くなる病気であるが,
早期から治療を行うと治癒することも多い。しかしある程度の期間をすぎると
ほぼ治らなくなる。そのため早期発見,早期治療が重要。急に始まった難聴は,
実際には耳垢など急を要しない他の疾患の場合もあるが,突発性難聴が一定割
合含まれる。後で後悔しないためにも急に聞こえが変になったら耳鼻科で検査
を。

耳の痛み,耳だれをおこす主な病気

 急性中耳炎
 特に小児で頻発する病気であるが最近は菌の耐性化の影響で治りにくく,再
発しやすくなっている。適切な抗生剤の選択や鼓膜切開などの治療が必要にな
ることも多い。まれに重症化し急性乳様突起炎に。乳児の「立ち耳」に要注意。

 真珠腫性中耳炎
 特殊な中耳炎のひとつで,周囲の骨を破壊しながら進行していく。重い合併
症につながることあり。長引く耳だれは必ず治療と定期的な受診を。

めまい

 めまいは様々な原因でおこるが耳が原因でおこるものが最も多い。
 耳のめまいは強烈な症状で始まることが多いが命に別状がなく,治りやすい
めまいといえる。むしろ脳からのめまいの兆候(ろれつが回らない,手足のし
びれ,意識がはっきりしない,頭痛があるなど)がある場合は要注意。耳が原
因のめまいではほぼ例外なく眼振という目の動きが観察される。この眼振の強
さで,ある程度めまいの強さも判定できる。めまいの改善度合いが他人にもわ
かりやすいめまいといえる。

顔面神経麻痺

 左右どちらかの顔の動きが悪くなったらこの疾患の可能性が高い。多くは目
が閉じにくい,水が口の端からこぼれるなどで気がつく。こうした症状があっ
たらすぐ病院へ。突発性難聴と同様に早期治療を行ったかどうかで治癒率が大
きく異なる病気である。できるだけ早く受診するようにしたいところ。内科等
でも治療する場合もあるが,関連する疾患と鑑別することの必要性,治療の選
択肢の多さなどを考慮すれば耳鼻科での検査,治療が一般的である。