「大腸がんで死なないために」


山口胃腸クリニック 山口 典男


 我が国のがん死亡に占める大腸がんの割合は年々増加しています。このまま
推移すると,数年以内には大腸がんが胃がんを追い越すのではないかと恐れら
れています。

 大腸がんの発生は40歳代から増加し,60歳代の人が最も多くなっていま
す。大腸がんの発生機序としては,正常粘膜からポリープを経てがんになる経
路と最初から微小がんとして発生する機序とがあり,両者がほぼ半分ずつと考
えられています。

 大腸がんは他の消化器がんに比べて進行が遅いので,早期に発見すればほぼ
100%治ります。ところが,がんがリンパ節に転移してしまうと5年生存率
は60〜80%にまで低下します。大腸がんの自覚症状はある程度進行してか
らでないと表れないことが多いので,血便や便秘・下痢などの便通異常が表れ
たら,ためらわずに消化器科を受診することが必要です。また,自覚症状のな
いうちに大腸がんを見つける最も良い方法は,がん年齢と言われる40歳以上
の人は1年に1回,大腸がん検診を受けることです。

 大腸がん検診では,まず便潜血検査が行われます。微量でも血液が混じって
いるかどうかが精密にわかるため優れた方法です。便潜血反応が陽性であった
人は,注腸 X 線検査といって肛門からバリウムを入れてレントゲン撮影した
り,肛門からカメラを入れる内視鏡検査などの精密検査が必要になります。こ
の段階で見つかるがんの半分以上が早期がんです。ところが,陽性と指摘され
た人の中には,恥ずかしい,面倒だ,検査が怖い,あるいは痔のせいだなどと
いって精密検査(精検)を受けない人が少なくありません。ちなみに,八戸市
では,平成11年度の統計で見ると要精検が約550名,そのうち精検受診者
は約350名でした。そして15名に大腸がんが見つかっております。

 さて,それでは便潜血反応が陰性であれば大腸がんの心配が全くないのでし
ょうか。現在用いられている便潜血反応の方法では,進行がんであれば90%
で検出可能ですが,早期がんの場合では検出感度は50〜60%と低くなりま
す。がんがあっても小さかったり,検査の日にたまたま出血していなかったり
して偽陰性のこともあるためです。自分は症状がないから,検診で異常なかっ
たからと慢心せず,年に一度は定期的に検診を受けることが大切です。

 日本の大腸がんの検診システムや診断法はすごく進歩しておりますが,治療
の技術も世界一です。治療は,がんの進行度によって決められます。一般的に,
早期がんであれば内視鏡によるポリペクトミーや粘膜切除を行います。しかし,
早期がんでもリンパ節に転移している可能性がある場合や進行がんは外科手術
を行います。最近では,早期がんの一部は開腹しないで腹腔鏡を用い,お腹に
小さな穴を開けてカメラを入れ病巣を取ることも出来ます。早期に発見するこ
とにより,より侵襲の少ない治療法を選択することが可能になります。

 大腸がんに関していえば,「絶対にがんになりたくない」と考えて高価な健康
食品を山ほど飲むより,むしろ誰でもがんになるという前提のもとで,「定期検
診によって早期発見に努め,いち早く治す」と考えて生きるほうが,より充実
した毎日を過ごせるかも知れません。