「早期発見! 耳の病気」


はかまだ耳鼻科医院 袴田 勝


 耳鼻科医が診療参加する神経耳科領域で,疾患の早期発見が,改善・治癒に
大いに関与する代表的疾患を取り上げてみたい。

1.突発性難聴
 初発症状は半日以上継続する耳閉感です。これを見逃さないことが大切です。
多くの場合,耳鳴を伴います。めまいを感じる例では改善に時間を要すること
もあります。耳鼻科医は以上の症状があって外耳道・鼓膜に異常所見がない場
合は「突発性難聴」を疑って聴力検査を行います。検査結果が「感音難聴」と
判定されると即刻治療を開始します。なお,治療開始が発症7日以内と以降で
は治癒率に大きな差が現れます。

2.顔面神経麻痺
 表情筋のわずかな異常に気づくことが大切です。疼痛を伴う場合は他の脳神
経麻痺を引き起こす前兆でもあり,治療に抵抗を示すことがあります。この疾
患では原則としてステロイド剤を多量使用しますので,糖尿病,緑内障などの
合併症例では他科治療医との連携が必要となります。また,初期治療時に症状
の悪化がみられたり,改善にある程度の時間を要するので,患者さんにも忍耐
が必要となります。

3.耳の悪性腫瘍
 悪臭・血膿性耳漏の増悪が特徴で,疾患の進展に伴って,耳閉感,難聴,め
まい感,疼痛が発現します。初期・早期発見による診断ならびに治療が重要で
あり,放射線科など他科との連携によるチーム医療が要求されます。ほとんど
の場合,入院治療となり,治療を受けることは大変ですが,頑張っていただき
たいと思います。

4.真珠腫性中耳炎
 真珠腫は周囲の骨を破壊するために悪臭性耳漏が継続し,難聴や頭重感を伴
います。進展すると髄膜炎や脳膿瘍などの頭蓋内合併症を引き起こしますので,
早期発見の下,真珠腫摘出とその頭蓋内進展予防を目的とした手術実施が必要
です。

5.乳幼児の難聴
 放置すると言語獲得に重大な支障を来します。最近は,新生児期に難聴のス
クリーニングテストが行われるようになり,難聴が確認されると,補聴器装着
による聴覚・言語教育に着手しますが,補聴器の対応能力を上回る高度難聴の
場合は人工内耳の埋め込み手術とそれによる言語教育を行うようになってきま
した。現在,この人工内耳手術は技術進歩の結果,1歳5か月児まで実施可能
となり,乳幼児難聴者の救済に多大の貢献をしております。

6.加齢による難聴
 一般に,加齢による難聴の改善は薬物・手術では期待できず,補聴器の装着
が必要となります。日常生活に支障を生じる際には耳鼻科にて聴力検査や補聴
器適合検査を受けて,各自に適した補聴器を選択することが大切です。補聴器
はアナログ型からデジタル型へと器種変更が進み,かなり性能が良くなりまし
た。しかし,難聴が高度の場合には対応が困難になります。従って,中等度位
までに装着し,補聴器に慣れることです。なお,種々の事情で補聴器装着が困
難な場合は「大きな声でゆっくり話してやる」という暖かみのある周囲のサポー
トも大切な事です。

 まずは,「何かおかしい」と感じたら,早期に耳鼻科を受診し,的確な診断
の下,適切な治療を受けられる事を望みます。