「内臓脂肪,減らして防ぐ生活習慣病」
メディカルコート八戸西病院 田中 由紀子
日本での主要死因別死亡率の年次推移をみると,死因の1位は悪性新生物。
2位と3位は心疾患,脳血管疾患です。心疾患と脳血管疾患をまとめて血管の
病気と捉えると,その頻度は悪性新生物に匹敵することから血管の病気,いわ
ゆる循環器疾患の予防は我が国の予防医学において大きな意義を持ちます。循
環器疾患は,動脈硬化を病因とし,高血圧や糖尿病,肥満などがリスクとなっ
ています。そのリスクの基礎になっているのが,メタボリック症候群といわれ
ています。
ドミノ倒しをご存知でしょうか。メタボの状態は,ドミノ倒しにたとえるこ
とができます。ドミノの起点は,不規則な生活習慣によっておこる内臓脂肪の
蓄積です。このドミノが倒れることによって,次に高血圧や食後の高血糖,脂
質代謝の異常が起こります。結果として,動脈硬化性疾患などの重大な病気を
引き起こすことになってしまいます。危険因子を見つけたら早期に是正し,ド
ミノを倒さないようにしなければなりません。
「肥満」「高血圧」「高血糖」「脂質代謝異常」これらの危険因子のひとつ
一つは軽症でも,複数の危険因子が重複していると動脈硬化のリスクが高まり
ます。メタボの状態では,リスクのない人に比べて脳梗塞は2〜3倍,心臓病
では10〜30倍も危険度が上昇します。ポッコリおなかは,怖い病気を引き起こ
す前段階なのです。
メタボの診断基準は,内臓脂肪の蓄積が必須条件と位置付けられています。
男性では85cm以上,女性では90cm以上を腹囲の基準値としています。この基準
を満たすメタボの年齢別調査では,40歳以上に多くみられ特に40〜74歳の男性
では2人に1人がメタボ,またはその予備軍という結果でした。また,働き盛
りの年代より60歳以上で多い結果でした。
なぜ,内臓脂肪の蓄積が悪いのでしょうか。内臓脂肪から分泌されている生
理活性物質にアディポサイトカインと呼ばれているものがあります。アディポ
サイトカインには,動脈硬化を予防する善玉アディポサイトカイン(アディポ
ネクチン)と動脈硬化を促進させる悪玉アディポサイトカインがあります。
アディポネクチンは,脂肪細胞から分泌されており,標準的な体格の人の血
液中に多く存在しています。アディポネクチンは血液中をめぐり,傷ついた血
管を修復する働きを持っています。このように良い働きをしているアディポネ
クチンですが,内臓脂肪が蓄積するとその分泌量は減ってしまいます。
内臓脂肪が蓄積すると悪玉アディポネクチンが増加することで血圧を上げた
り,インスリン抵抗性を強めたりと悪い働きをするだけでなく,血液をサラサ
ラにするような良い働きをする物質を抑制してしまいます。メタボになるとこ
の状態が続き,血管が傷ついて動脈硬化が進む原因となります。
メタボの予防,改善には1に運動,2に食事,しっかり禁煙,最後にクスリ。
歩く人にメタボは少ないといわれています。1日300キロカロリーを減らすつ
もりで,日頃から体を動かす習慣を身に着けましょう。
自分の体を知ることも大切です。健康診断を定期的に受けて,健康状態を把
握しましょう。メタボを指摘されたら放置せず,かかりつけのお医者さんに相
談しましょう。そして,健康長寿を目指しましょう。