「糖尿病とうまく付き合う方法」
向井田胃腸科内科医院 向井田 英明
増えている糖尿病
厚生労働省によれば,糖尿病が疑われる人は平成9年690万人→平成14年740
万人→平成19年890万人,糖尿病の可能性を否定できない人は680万人→880万
人→1,320万人,合計すれば1,370万人→1,620万人→2,210万人と急激に増加し
ている。この増加の原因は高齢者が増加しているためである。日本ほど高齢化
率が高く急速に高齢化が進んでいる国はない。平成37年には生産年齢人口のほ
ぼ2人で1人の高齢者を支えなければならない状況となる。今後,高齢者の糖
尿病は大きな医療問題となってくるものと考えられる。
糖尿病の治療
糖尿病治療の目的は,糖尿病であってもできるだけ健康な状態に近づけ,そ
の状態を長く続けることによって普通の人と変わらない日常生活が続けられる
ようにすることである。つまり合併症を起こさないことであり,これには糖尿
病に特有な三大合併症の網膜症,腎症,神経障害がある。そのほかに動脈硬化
症,糖尿病足病変があり,最近では歯周病も注目されている。合併症は初期の
段階では症状がない。早期発見には専門家の診察が必要で,特に網膜症に関し
ては定期的な眼科医の受診が不可欠である。歯周病も初期には症状がないので,
定期的に歯科受診をすることが望ましい。
糖尿病の治療には食事療法,運動療法,薬物療法があるが,なんといっても
その基本は食事療法であり,このことが糖尿病の治療を難しくしている理由で
もある。したがって治療には王道はなく,日々,日常の生活においてコツコツ
と努力するしかない。テレビでは糖尿病に効果があるという高価な食べ物,飲
み物を大々的に宣伝しているが,本当に効果のあるものはないということをき
ちんと認識する必要がある。
糖尿病とうまく付き合う方法
歌手のMさんは,35歳で糖尿病を発症,66歳時には心筋梗塞にて心臓バイパ
ス手術施行,その後糖尿病壊疽にて右足切断,71歳時にはさらに左足切断し車
椅子状態となり,73歳で肺炎で死亡している。
一方,華道家の假屋崎省吾さんは,44歳で糖尿病を発症(空腹時血糖273mg/
dl),父も糖尿病で59歳で心筋梗塞にて死亡している。発症当初は医師に入院
を勧められたが仕事のためできず,自分で毎日4,000kcal近く食べていた食事
を1,600kcalとし,シークァーサーダイエットという独特の食事療法をあみ出
し,体重を6か月で15kg減量した。食事療法のみにて糖尿病を克服した糖尿病
治療の成功者である。彼は糖尿病協会の機関誌である『さかえ』の「糖尿病と
生きる」という文中に「かきくけこを大切にしています」と書いている。「か」
は感動,感謝すること,「き」は緊張を持った生活をすること,「く」はくつ
ろぐこと,「け」は健康であること,「こ」は好奇心をいっぱい持って生きる
こと。さらに,別冊NHK今日の健康『糖尿病』に次のような文章を載せている。
「人生を楽しみながら,これ以上悪化させないつもりでつきあっていきましょ
う,糖尿病は一生の友なのですから」。まさにこれは,糖尿病とうまく付き合
う心構えではないかと思う。