「動脈硬化予防は生活習慣から」
類家内科クリニック 及川 広則
動脈硬化は遺伝素因に環境因子が加わり発症する。多くの疫学的調査による
と,食習慣,運動を含む生活習慣が動脈硬化の進展に関与している事が示され
ている。例えば日本人の移民を調べた研究では,動物性脂肪を食べる量,血清
コレステロール値,冠動脈疾患発生率ともに,日本,ハワイ,サンフランシス
コの順で増加している。一方,虚血性心疾患患者を対象にコレステロール摂取
制限,アルコール制限を含む厳しい食事制限に加え,禁煙,息切れをする程度
の運動,ストレス対処法を1年間実施。その結果,減量,血清脂質の著明な改
善と共に狭心症発作が減少し,冠動脈造影で冠動脈狭窄が改善したとの報告も
ある。この結果は,動脈硬化予防に生活習慣の改善が重要である事を示す。
1.食習慣の是正
1)摂取エネルギー
肥満,中でも内臓肥満は糖尿病,リポタンパク代謝異常,高血圧などの原因
となり動脈硬化を促進する。従って一日の摂取カロリーは標準体重1s当り2
5〜30とし標準体重の維持を図る。
標準体重はBMI22を基準とし,身長(m)×身長(m)×22で算出する。
2)脂質
飽和脂肪酸(S)(動物性脂肪)にはコレステロール増加作用があり,多価
不飽和脂肪酸(P)(植物油,青魚EPA,DHA),一価不飽和脂肪酸(M)
(オリーブ油)にはコレステロール低下作用がある。植物油のとりすぎは免疫
力低下やHDL-Cの低下を引き起こすが,オリーブ油にはそれが無い。
従ってS:P:M=1:1:1.5の比率で脂質を摂取する事が望ましい。コレ
ステロールの摂取は一日300r以下とする。
3)炭水化物
炭水化物の過剰摂取でTGの上昇,HDL-Cの低下が認められ,動脈硬化が促進
する。中でも砂糖はその傾向が強く,インスリンの過剰分泌に伴う高インスリ
ン血症の結果,動脈硬化をますます促進する。
4)蛋白質
動物性蛋白質の摂取は血清コレステロールを上昇させ,冠動脈疾患死亡率を
高める。一方,大豆などの植物性蛋白質は血清コレステロール低下作用がある
のでなるべく摂取する。
5)食物繊維
水溶性繊維(コンニャク,海草)は胆汁酸の再吸収を抑制し,血清コレステ
ロール低下作用がある。又,食物繊維は糖の吸収を抑え耐糖能の改善作用もあ
る。一日20g以上を目標とする。
2.運動習慣の是正
1)運動と高脂血症
運動によりTGの減少とHDL-Cの上昇を認める。運動によりインスリン抵抗性
が改善し,脂肪組織・筋肉組織のVLDL(超低比重リポ蛋白)の分解が亢進し
HDL-Cの生産が増加する。
2)運動と高血圧
軽い運動を続ける事により,循環血漿量の減少,交感神経の抑制,利尿効果
などが得られ血圧が下がってくる。
3)運動と糖尿病
運動はインスリン抵抗性を改善し,血糖低下,インスリン使用量の減少,耐
糖能の改善などが認められるようになる。
4)肥満と運動
運動療法のみでは効果が少なく,食事療法を併用する事で体脂肪を減らす事
ができる。
5)運動療法の実際
平地の速歩,水泳など大きな筋肉を使った律動的な運動が勧められる。運動
の強度はやや息切れする程度。脈拍数=138−年齢/2程度で,少なくとも
10〜20分以上継続した運動である事。一日の運動は30〜60分を目標に
する。60分で200〜300のエネルギー消費になる。運動を中止すると
効果が減少する事から,週に3回以上,合計180分以上を目標とする。肥満
や糖尿病の方は無症状の虚血性心疾患が隠れている事も有るので,まず医師に
より心電図などのチェックを受けてからのほうが良い。
3.その他の生活習慣
禁煙,飲酒は日本酒で1合まで,食塩7g/日。