「被災地医療:中」
現地調査での重要な項目は、被災者個別の歯科的要求の調査集計です。それ
により、どのような器材、材料をどれくらい用意するかが決まります。
しかし我々の緊急歯科診療を阻むのは材料の不足でもマンパワーの不足でも
なく、地元歯科医師会との診療に関する”取り決めルール”。私たちが不用意
にしゃしゃり出ることによって後々、この地区の歯科診療を難しくすることは
避けなければなりません。
全てを我々に任せるというのなら、事は早いのです。そのことを良く理解し
ている黒田医師は、「全ての責任は私がとる」とまで言い切り、チーム八戸の
継続診療を願っていました。
こういう問題の影でいつも置き去りになるのは患者さんです。入れ歯を失っ
てすでに2週間以上経過し、明日からも入れ歯がない生活が数週間続くという
人が目の前に大勢いるというのに…。
救急に特化した足踏み状態の現場の歯科診療では、満足な食事さえままなら
ない状況がしばらく続くと考えた我々は、自分たちの意志で、通常診療に切り
替えたシステムを起こしました。
地元の歯科の先生方は自分たちの回りのことで精いっぱいのはずです。だか
らこそ被災者は、八戸からの援助を必要としているのです。
考えられる限りの合理的な救急治療処置により、初日の患者35人の治療は
無事終了。私たちのファーストミッションは、目的を十二分に達成して終了し
ました。これまでにない救急診療マニュアルの構築と、プロトコルが作成でき
そうな予感がします。
もちろん既存組織には出来ないフットワークの軽さや、合理的行動力のエネ
ルギーはまだまだ持ち合わせていますから、これからも2次、3次の超組織的
なヘルプに応えていく予定です。
花巻から参加したある歯科医師が言いました。「早く来たかったけれど、色
々なしがらみで来ることが出来なかった。今回八戸チームに参加できてよかっ
た」。これを聞いた衛生士から少し怒ったように「被災患者の治療より大切な
『しがらみ』って何ですか?」と聞かれ、返答に困る自分がいました。