「産科医療の現状と課題」

西村幸也=西村産婦人科クリニック院長、八戸市在住

 妊婦さんの緊急搬送の受け入れ拒否や「たらいまわし」の報道が後を絶ちま
せん。

原因は深刻な産科医の不足にあり、さらにその原因は産科医の勤務の過酷さと、
産科での訴訟が多いことであることが、連日マスコミでも取り上げられ、世間
で知られるようになってきました。

 八戸地区でも産科医療が危機的な状況であることは、例外ではありません。
表にお示ししましたが、住民票に基づく青森県の公式発表では、例えば二〇〇
六年の八戸地区(三戸郡を含む)の分娩(ぶんべん)数は二千五百件ですが、
八戸産婦人科医会の調査では、同地区の同年の分娩数は三千二百一件で、公式
記録よりはるかに多いのです。この数の違いは、上十三地区と岩手県北からの
受け入れと、里帰り分娩数とを反映しているものと考えられます。

 三千二百一件のうち、総合病院は千三十二件(32%)、産婦人科医院(クリ
ニック)は二千百六十九件(68%)でした。これを勤務している産科医一人当
たりに換算すると、総合病院では百二十一件、医院(クリニック)では三百六
十一件となります。

 お示しした〇六年の時点でも産科医の負担はすでに過重でしたが、その後こ
の二、三年のうちに分娩を扱う総合病院は八戸市内では三カ所から二カ所に減
り、産婦人科医院(クリニック)は六カ所から四カ所に減ってしまいました。
病院、医院(クリニック)を問わず、厳しい状況下で、産科医や助産師、看護
師等のスタッフはぎりぎりのところで踏みとどまっている状態です。

 このような環境で、この地域で安全なお産を確保してあげるにはどうすれば
いいのでしょうか。一言で言えば産科医、産科医療機関同士の連携をより密接
にしなければいけません。それも、机上で、例えばコンピューター上でベッド
の空きの有無を確認できるシステムを構築すれば済むレベルではなく、どこで
誰がどんな診療をしているのか、お互いの「顔の見える」連携が不可欠なので
す。

 幸か不幸か、八戸地区では産科医の数が少ないこともあって、相互の連携は
良好なのですが、今後は「地域の産科医療施設全体が一つのチーム」というく
らいの意識で、地域の皆さんがより安心してお産に臨める環境を提供していき
たいものだと考えています。