「日本の医療費は安い」

本田忠=本田整形外科クリニック院長、八戸市在住

 日本の2007年度国民医療費が34兆円に達し、過去最高となりました。
しかし06年の対国内総生産(GDP)比率は8・1%と、先進諸国の中では
最も低くなっています。

 つい数年前まで日本より低かった英国は、医療費増加政策に転じたため日本
を抜きました。ちなみに、わが国のパチンコ産業の年間売り上げは約30兆円、
また葬式産業の売り上げは約15兆円といわれています。

 社会保障費、特に医療費の増加が、経済成長を阻害する張本人のような言い
方をする人がいます。いわゆる「小さな政府」論です。しかし先進諸国と比べ、
日本はその経済力に対して医療費の公的支出は大変少ないのです。もともと「小
さな医療」であったといえます。

 必要な医療費まで削減すると、医療の安全性や質を維持することができなく
なるばかりか、医療全体が崩壊してしまいます。このことは、英国のサッチャー
政権が医療費削減政策を続けたために医療が崩壊してしまったことを見れば明
らかです。崩壊はすでに始まっています。いったん崩壊してしまえば、再建す
ることはほとんど不可能です。

 日本では、「病気になって困ったときのために、みんなでお金を出し合おう」
という社会保障の精神に基づいて医療費が支出されています。

 医療は社会を支える土台です。健康や生命を守る、しっかりとした医療体制
があってこそ、わたしたちは安心して毎日を過ごすことができるのです。医療
は、国民の健康と生命を守るための安全保障なのです。

 医療の質を高め、安全性を確保するためには、それなりの費用が掛かります。
そのための費用をどう捻出(ねんしゅつ)するかという議論が、今、求められ
ているのです。目先の議論で医療費抑制政策を進めることは、将来の日本に大
きな禍根を残すことになります。