「Mission Impossible」
今明秀=八戸市立市民病院臨床研修センター・救命救急センター所長
何のために医師になるのだろう。命を救うため、喜ばれるため、世の中に貢
献したいから…いろいろありそうだ。目の前に瀕死(ひんし)状態になってい
る患者を診て、それを救えないのなら、それは医師の力不足か、患者が重症す
ぎるかだ。
若い医師が救急研修を行う大きな目的は、ER(救急外来)で軽症から重症
までそつなく診ることができるようになること。重症患者を受け持ち、手技や
知識を身に付けること。最重症の患者を鮮やかに救う場面に遭遇することと、
私は思っている。
ERの診療が上手になってくると、救急医療は病院前から始まっているこ0と
に気付く。救急隊の処置や、交通事故の受傷機転(経緯)にも目が注がれる。
さらに、自ら救急車に乗って現場に出動したくなる。
ここ八戸市立市民病院救命救急センターでは、消防の救急車に医師が同乗す
る実習を行っている。翌日の勤務に影響が出ないように、午後5時から同11
時に実習時間を限定している。119番通報直後に患者の自宅に救急隊員と一
緒に出動したり、交通事故現場に出動するのである。
病院前救護は陸上だけではない。海の街・八戸では時々海難事故が起こる。
太平洋上に出動することは、都市部では経験できない。ドクターヘリなど到底
届かない、はるか沖合までわれわれは出動する。夏の感動的な経験をお話しし
よう。
出動要請はお盆で、救急室がごった返している夕方に突然来た。ミッション
は「三陸沖約400キロの洋上の船舶内に、ショックで呼吸困難の患者がいる。
海上自衛隊救難ヘリコプターに同乗し、夜の太平洋に出動してくれ」。
40歳代男性。正午ごろ、三陸沖漁場で操業中の漁船にて冷凍されたカツオ
が十数匹落下し、頭部に当たり卒倒した。呼吸苦を訴え、顔色が不良となった
ので船舶無線で救助要請。海上保安庁は、海上自衛隊と当センターへ出動依頼
をした。その時点で、私はトム・クルーズになりきっていた。
この続きは来週に。
「提供・今明秀医師」